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各国で対中感情が悪化。菅首相の外遊デビューも中国けん制の目的が

ビジネス

NATOのような多国間安全保障協力を

 日米豪印だけでなく、ベトナムやフィリピン、インドネシアやマレーシア、ニュージーランド、南太平洋やインド洋に自治領・海外領土を持つフランスやイギリスなどもインド太平洋構想への関心を強めている。クアッド会議は今後こういった国々も組み込んでいく計画があり、今こそNATO(北大西洋条約機構)のような多国間安全保障協力を構築すべきとの意見もあがっている。

 日本周辺のアジア地域にあるのは、米国を中心とする安全保障体制だが、これでは海洋覇権を進める中国をけん制するためには十分とは言えないのが現状である。

 米国のパワーが相対的に低下していくなかでは、NATOのように「一国への攻撃を全加盟国への攻撃とみなす」集団安全保障体制を、日米豪印の地域大国が主導して作っていくことは戦略的にも重要である。

韓国・台湾の加入は現実的ではない

東南アジア

 比較的親中の文政権である韓国や、中国が核心的利益とみなす台湾がこの構想に初めから加わることは現実的ではない。まず南シナ海問題で悩むフィリピンとベトナム、インドネシアとマレーシア、そして価値観を共有するニュージーランドをこのクアッド会合に参加させ、徐々にこれを大きくしていくことが戦略的だろう。

 菅義偉首相は19日午前、就任後初めての訪問先であるベトナム・ハノイでフック首相と会談し、海洋進出を進める中国を念頭に入れ、防衛装備品・技術移転協定で合意。「自由で開かれたインド太平洋」構想の実現へ向け協力を強化していくことで一致した。

 また、21日にはインドネシアを訪問してジョコ・ウィドド大統領と会談し、同様に自由で開かれたインド太平洋構想に基づき、安全保障協力を深めていくことで合意した。当然ながら、今すぐNATOのような枠組みができるわけではない。

 本人は否定しているが、菅首相がベトナムとインドネシアを訪問したことは、インド太平洋地域でNATOのような多国間安全保障協力を構築していく上での1つのプロセスだ。

 米中対立が深まれば、こういった多国間協力はいっそう進む可能性が高い。

<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>

国際政治学者。首都圏の私立大学で教鞭をとる。小さい頃に米国やフランスに留学し、世界の社会情勢に関心を持つ。特に金融市場や株価の動きに注目し、さまざまな仕事を行う。100歳まで生きることが目標

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