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なぜ人は自粛要請でもパチンコに通うのか?依存症の恐怖を専門家に聞いた

暮らし

治療を始めるまでじっくり向き合う

――当事者本人に自覚(病識)が芽生えて、ようやくクリニックに訪れるということでしょうか。

斉藤:実際は、家族などの身近な人に無理矢理治療に連れてこられたというケースもあります。本人も「こいつに言われたから来たんだ」みたいな口ぶりで、「これだけの問題が起きているでしょ!」と正論を言っても、まったく本人には響きません。正論や説教は、時に依存症治療を後退させる要因になります。本人の抵抗とともに転がるというイメージで、まずはつながりをつくります。

 初診の際は本人の否認や抵抗、反発を受け止めた上で、「今後も(ギャンブル、アルコールなどを)続けていると、恐らく〇〇のような問題が起きるでしょう」と、将来起こりうる問題を予測して伝えます。そして何か起きたときにまた来てくださいねと次の外来受診の約束します。

 それから、実際に再び問題が起きてから本人が認めざる得ない状況になり、ようやく治療が開始されるのです。とにかく治療につながることが第一優先で、援助・支援関係のなかで動機づけを高めていく。このように、本人の動機づけをどのように高めていけばいいかに注目してアプローチしています。

「20代後半で借金900万円抱えた男性」

スロット台

――これまでの臨床の現場で、特に印象に残っているケースはありますか。

斉藤:20代後半の男性の方で、両親に付き添われてきました。パチンコやスロットをやり続けていて、初診時は借金が900万円ほどありました。本人だけではどうにもならず、親に泣きつくしかない。親からしたら、これが息子の初めての泣きつきではなく今まで何度となく借金の尻拭いをしてきました。今回は、公務員だった仕事を早期退職して、その退職金で返済するしかない状態だったようです。

 ところが治療を開始して1か月くらいしたら突然外来に来なくなりました。こちらとしてはスリップしたか、失踪したか、仮病を使って親が巻き込まれているかだと思うわけですよね。数日しても現れないため、両親に連絡することにしました。

 両親の話によると、息子に土下座して泣きつかれたので、これがラストチャンスということで退職金をあてにして返済してしまったそうです。しかし返済後に当の本人は失踪してしまいました。

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