メール「BCC/CC」の使い分けを知らない老作家。困った編集者は…
女性へのセクハラメールも見える
川上さんを悩ませたのは、それだけではありません。実は作家Bさんは、気に入った女性編集者や女性ライターにすぐ手を出そうとするのですが、そのやり取りまでメールで共有してくるそうです。
「女性たち一人ひとりに『彼女と愛人どっちになるのがいい?』『最近いつ、男とベッドインしたか?』などとセクハラの質問をメールするんです。その内容まで僕のアドレスに含まれていて……僕が送っているわけではないのに、穴があれば入りたいくらい恥ずかしかったです」
そのうち、状況を黙って見ていた川上さんのほうまで、女性たちからの苦情が寄せられてきて、川上さんはBさんの会合に誰も女性を連れていけなくなってしまいます。
「ところが、先生はいつも『誰か女性がいたほうが話が盛り上がるだろう』と命じてくるので、さばさばしている既婚ライターに『セクハラ発言する場合もあるけど、どうしても来てくれないか』と頼んでいます」
「どうして黙っていたんだ!」
周囲からは「どうして正しいメールの方法を教えてあげないの?」と首を傾げられるそうですが、川上さんは「先生の無知を指摘するのも、プライドを傷つけてしまいそうでできない」とうなだれてしまうのです。
ところがある日のセミナーでのメール案内後、川上さんのパソコンにウィルスが侵入し、ダウンするという事故が生じました。
「不動産投資の営業マンが送ってきたメールが拡散していったためか、あるいはセミナー参加者に恨まれたせいなのか、ウイルスの感染元は全くわかりませんでした。でも、僕のメアドが狙われたことは確かで、ひょっとしたら先生のセミナーに参加した関係者かもしれないと思うと、ぞっとしました」
「これ以上自分のメールが他人に晒されてしまってはたまらない」と、川上さんはとうとうBさんにBCCとCCの区別を説明して、「これからはBCCで送信してください」とお願いしたのです。
すると、「どうして今まで黙っていたんだ」と、逆に叱られてしまったそうです。相手の気分を害さないように気遣いしたつもりが、逆効果だったとは……それ以降、川上さんは年上の相手にも何か違和感を抱いたからすぐに指摘するようにしています。
<取材・文/夏目かをる イラスト/カツオ(@TAMATAMA_GOLDEN)>