<第4回>紙幣の誕生、そして貨幣の創世記(Genesis)が始まった!――『貨幣論』と『トイ・ストーリー』を混ぜてみた
<この物語は岩井克人の『貨幣論』が、もし『トイ・ストーリー』だったら? という仮定のもとに書き進められています>
【第4回】紙幣の誕生、そして貨幣の創世記(Genesis)が始まった!
<登場人物>
リンネル:服の素材に使われる亜麻布のことで、英語で言うとリネン。
上着:新品の一着の上着。
お茶:美味しいお茶。
コーヒー:淹れたてのコーヒー。
金:光りかがやく金。ほかの商品とは違う「何か」を感じさせる。
<前回までのあらすじ>
商品世界にぽっかりと空いた穴からやってきたのは光り輝く「金」だった。 商品たちは金の姿に魅了され、不思議な魔力のトリコになっていく。
お茶「金ですべてを測るんだ……」
そして、金は王冠を手にし、その地位を不動のものにした。商品世界は今、金に支配されようとしていた……。
すべての価値が金によって決まっていく!
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ひとつの商品は、「じぶんの等価物」すなわち「じぶんと交換しうるもの」(六四)としてのほかの商品に関係することによって、はじめてじぶんの価値を感覚的具体的な形態として表現しうるのであるとマルクスはいう。そして、そのもっとも単純な表現は、ひとつの商品がもうひとつの商品にたいしてもつ関係である。
(岩井克人『貨幣論』ちくま学芸文庫、四二頁)
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金が「貨幣」になってからというもの、商品たちはお互いを見る目が変わりました。
上着「今までならお互いがお互いのことを『欲しい』と思わないと交換することができなかった」
コーヒー「お互いの価値がどのぐらいかを延々と話していたよね」
上着「だけど、これなら価値を測るのがとっても簡単だ!」
コーヒー「うん、ぼくは金なら5グラム!」
上着「ぼくは金なら15グラム!」
コーヒー「つまり、ぼく3つときみ1つが等価なんだ!」
上着「やったね!」
それまでは苦労してお互いの価値がどの程度で等価になるかを話していたのですが、金によって格段にそれが楽になったのです。
そして、それと同時に、金の特権性はますます高まっていました。「穴」から取れるとは言うものの、その数は限られており、希少性があったからです。
金「ふふふ、みんな私を見るのだ。光り輝く私を。私で価値を見極めるのだ!」
金は玉座に君臨し、毎日豪勢な生活をしていました。いいものを飲み食いして暮らしていました。
リンネル「みんないったいどうしちゃったんだ……」
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貨幣さえ存在していれば、欲望が二重に一致していないところでも商品と商品との交換が可能になる。貨幣とは一般的な等価形態と全体的な相対的価値形態とを同時に演じるモノであり、ほかのすべての商品から直接的な交換可能性をあたえられるとともにほかのすべての商品に直接的な交換可能性をあたえている。
(岩井克人『貨幣論』ちくま学芸文庫、八二頁)
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