<漫画>推しのアイドルの肌が荒れた。当事者にしか描けない漫画とは
絵が下手なりに勝負したい
――単行本のなかでは「推しの肌が荒れた」が最新作ですが、ほかの過去作品と比べてなにか変化はありましたか?
もぐこん:過去の作品のほうが描き込みは多いですが、多すぎて見づらい部分もあったと思います。「推しの肌が荒れた」は制作期間が短かったこともあって、描き込みは少なめにしつつ、うまく白黒のバランスで表現できればと思って描きました。
そういう工夫は、だんだんできるようになってきましたね。絵の描き方だけは誰も教えてくれないので、焦って描いていくなかで「描く」「描かない」の判断力を身につけているところです。
――影響を受けた憧れの人というのは?
もぐこん:圧倒的に、楳図かずお先生とつげ義春先生です。直接教わってはいませんが、自分のなかでは「先生」ですね。白黒の綺麗さでは、いまだにあの2人を超える人はいないと思います。
ほかにはない作品を描けたら
――特に好きな作品は何ですか?
もぐこん:つげ先生の作品では「海辺の叙景」がいちばん好きです。最初と最後に海のシーンがあって、その見開きの使い方が凄いんですよね。楳図かずお先生だと「わたしは真悟」です。個人的に「漫画に描かれた少女」史上いちばん可愛いのは、「わたしは真悟」の真鈴ちゃんだと思っています。じつは「推しの肌が荒れた」の真鈴ちゃんも、この作品からいただきました。
――そんな裏話があったんですね。たしかに、お二人に通ずるものを感じます。
もぐこん:分かりやすいですよね。僕が漫画を描き始めた頃にちょうど『ガロ』が休刊して、独特なタッチと不思議な物語みたいな作風が途絶えた感じがあったんです。だから「俺が後継者になってやる」みたいな気持ちもありました。今は、そういう変な気負いはなくなりましたね。
――今はどういう気持ちで漫画を?
もぐこん:下手な絵でも、面白いのか面白くないのか分からないお話でも「ほかにはない作品」になったら、自分が描く意味はあるかなと思って、描いています。
前までは「歴史的な名作がありすぎて、何をやればいいか分からない」と思ったりしていましたが、あるとき「もうすでに名作があるってことは、自分がどんなしょぼい作品つくっても世界的にはぜんぜん影響ないな」と思えて、むしろ気が楽になったんです。そこからは、好きにやればいいと思うようになりました。
<取材・文/Marino>
【もぐこん】
漫画家。大学時代から漫画を描き始め、初の単行本『推しの肌が荒れた ~もぐこん作品集~』が発売中。表題作ほか群れからはぐれた人々が描かれた渾身の4作品を収録