「挨拶に戸惑う」若手社員の悩みが相次ぐ。強要だと感じてしまう背景は
挨拶をするのに大きなエネルギーが必要
これまで重要な役割を担ってきた挨拶や発声の存在感が薄れているのには、「現代の挨拶習慣が関係しているのではないか」と大美賀さんは指摘する。
「複数人とリモートでつながったとき、『誰かが切り出してくれるだろう』と挨拶をせずに待ってしまい、誰かがおそるおそる『お疲れ様です……』と切り出すというのはよくある話です。これがリアルな現場であれば『無反応な人』だと受け取られてしまう可能性が高いでしょう。
でも、皆がリモートで能面だと気にならない。また、私生活でも近所の方や家族と挨拶を交わすことが少ないなど挨拶が習慣化していないことが多いです。こういった状況が続くと、挨拶をするのに大きなエネルギーが必要になってしまいます」
大美賀さんは「挨拶が習慣化していれば、歯磨きや化粧と同じように当たり前の動作となるため、疑問を持ったり躊躇したりする人も少なくなり、それほどエネルギーも使わない。けれど習慣化していなければ、それは勇気が必要な動作になる」と分析する。
「挨拶しなさい」は強要なのか
若者のなかには、「挨拶しなさいと命令するのは、強要ではないか?」という意見を持つ者もいるようだ。昨今、パワハラやセクハラについては敏感な職場も多いが、現在はどのような風潮にあるのだろうか。
「上司の出社時に、どんな状況でも全員が立って『おはようございます』と言えなどと強要される場合には、パワハラの領域に入ってくるかもしれません。ただ、仕事上、挨拶は大切なので『挨拶をしなさい』と言うだけでは、一般的には強要だとは考えにくいです。
挨拶を強要だと考えてしまう背景には、挨拶をせずに済んでいる生活習慣も大きいかもしれません。出社すると『おはようございます』は必ず言わなければいけないけれど、リモートだと『これから業務をはじめます』というメール1本で済むケースもあります」
職場環境の変化をうけて挨拶をおっくうに感じてしまう若手ビジネスパーソンも多いかもしれないが、まずはちょっとした勇気と工夫で心理的ハードルを乗り越えていきたい。
<取材・文/山内良子>
【大美賀直子】
公認心理師、精神保健福祉士の国家資格を持ち、カウンセリングと講演活動を行う。2002年より総合情報サイトAll Aboutで「ストレス」のガイドを務め、多様なストレスへの対処法を解説。『大人になっても思春期な女子たち』(青春出版社)、『長女はなぜ「母の呪文」を消せないのか』(さくら舎)など、著書・監修多数。公式「大美賀 直子(メンタルケア・コンサルタント)のホームページ」も更新