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なぜ介護や保育は低賃金なのか?“必要不可欠”なのに冷遇される理由

ビジネス

徐々であるが、変わる空気感

 声を上げることの必要性を示したが、待遇改善のために声を上げるアクションと言えば“ストライキ”が考えられる。実際にエッセンシャルワーカーのストライキ状況はどうなのか。

「法律ではストライキ権が保障されており、声を上げることは可能です。ただ、労働争議の件数は1973年を境に減少し、特に1990年代になってからは激減しています。労働組合の組織率も1975年では34.4%でしたが2021年には16.9%と半分まで低下しました。そもそも、日本ではストライキよりも労使間で協力して企業の業績を上げる“労使協調路線”が基本的でした」

 日本では「労働者が声を上げよう!」といったムーブメントは起きにくい雰囲気があり、これではエッセンシャルワーカーの待遇改善は一向になされそうにない。しかし、コロナ禍をきっかけに声を上げやすい環境に変化しつつあるようだ。

「エッセンシャルワーカーという言葉自体、2020年の新語・流行語大賞にノミネートされました。冷遇されている現状や私たちの生活にいかに必要な存在なのか、といったことを社会に認知されるようになったと思います。『業界全体で労働者が一致して声を上げる条件が整った』と見ることができますね」

介護士や保育士は賃金引き上げか

看護師

 続けて、「労働組合の全国組織である全国労働組合総連合(全労連)は、2020年7月に記者会見を行い、『緊急事態宣言下でも休業できなかった医療、介護、流通、飲食などの社会を支えているエッセンシャルワーカーは最低賃金に近い待遇で働いている』と訴え、社会に大きな共感を呼びました」とその手応えを感じている。

 福祉・介護職員や保育士・幼稚園教諭の収入を3%程度(月額9000円)、看護職員の収入を1%程度(同4000円)引き上げるための措置を2月から前倒しで実施した。それでも他の職種との格差を埋めるには十分ではない

「世論の声を受けて、岸田文雄首相は、福祉・介護士や保育士、幼稚園教諭などの賃金を収入の3%程度、看護職員を1%程度引き上げる政策を今年2月より実施しています。とはいえ、事業所の判断で同じ職場の他の職種に配分することも可能ですので、確実にこの金額が給与に上乗せされるわけではありません。また、あとの一時金で調整される可能性も想定されることも留意する必要があります」

 なんにせよエッセンシャルワーカーの待遇改善は、微風ではあるが追い風ぎみと言える。

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