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在宅ワークで急増中のクラウドソーシング。利用者の特徴は?

コラム

報酬よりも働き方を重視するユーザーが多い?

 コロナ前の値ですが、クラウドワークスの調査によると女性ユーザーは「時間と場所にとらわれない新しい働き方を求めてクラウドワーキングを選択」が7割を超えています。

 希望月収は3万~5万円未満が18.6%ですが、実際の最高月収は1万~3万円未満が30.2%とのこと。報酬よりも働き方を重視する女性ユーザーが少なくないようです。

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図表:女性ユーザーのクラウドワーキングの理由(クラウドワークス「女性の働き方調査」より)

 どのサービスも個人年収300万円未満のやや低所得ユーザーが中心ですが、クラウドワークスとランサーズはどの年収ゾーンもあまねく半年前と比べてユーザーが増加。ココナラは個人年収500万円未満ユーザーに動きはなく、500万円以上のゾーンが若干増えています。前述の通りコロナ禍でワーカーの収入は全体に減少傾向ですが、収入補填に限らず、お金には余裕がありそうな人も関心を高めているようです。

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図表:主要クラウドソーシングの6ヶ月間のべユーザー数(サイトまたはアプリのPCまたはスマートフォンによる利用。個人年収別)

クラウドソーシングへの期待と実態

 さて実際にクラウドワークで出会えそうな仕事はというと、正直これだけで食べていくのはツラそうという印象が否めません。

 例えばライティングやネーミングの場合、2020年8月現在クラウドワークスには約3900件、ココナラは約50件、ランサーズは約430件の募集案件が掲載されていますが、専門性を求められない仕事だと1記事350円、1文字0.1円などの募集が中心。スキルにもよりますが、時間単価に換算すると東京都の最低賃金1013円に満たないケースが多いと思われます。

 ネーミング募集は数万円程度のコンペ型が中心なので獲得できればそれなりの報酬ながら、その分、参加者も多く、数百件のエントリーにおいて勝ち残る確率は高くないでしょう。

 クラウドワーカーの利用が多い「note」や「アメーバブログ」には、受注競争や実作業の体験談をふまえた悲話、怪しげな案件に対する注意喚起もちらほら。単価の低い仕事であっても受注にはそれなりの工数がかかるため、誰もが思惑通りに稼いでいるわけではなさそうです(成功者は黙っているのかもしれませんが)。

 優良クライアント認定制度や報酬の適正化といったクラウドソーシング各社の取組みには大いに期待しつつ、ワーカー側は社会全体における労働価値のデフレに加担しないよう気をつけたいものです。

 国内外のクラウドソーシングを実際に使いこなすITベンチャー社長いわく、ネーミングは「定額予算、短期間で、社内だったら到底無理な数百件のアイディアを集められるのが魅力」とのこと。提案1件15分として500件集めたら7500分=125時間。最低賃金計算だとしても12万6625円分の仕事が3万円、5万円で発注されていることになります

 他方、新興国はじめ海外市場におけるターゲットリスト作成やプレセールスなどの業務は「現地では高額かもしれないが、遠隔営業費用としてはリーズナブル」(同社長)で、安い・早いからではなくワーカーの品質と仕事の価値に対して価格を設定するそうです。報酬がモチベーションの全てではないにせよ、こうした発注者側の事情も鑑み、UpWorkなどの海外クラウドソーシングサービスに目を向けたり、直接契約へのシフトが見込まれそうな案件に絞ったりといった工夫が有益なのかもしれません。

今後はリモートで働けるスキルが必須に?

 絶対安泰といわれていた金融機関ですら破綻するという現実を目の当たりにした平成時代ではありましたが、世界規模で移動が制約される事態はそれでも想定外でした。

 同じ運ぶという仕事でも人間の移動を支える鉄道や航空はほとんど収入がなくなり、人を動かさずに物やサービスを運ぶ仕事は需要が急増しました。そしていま、物やサービスと人、人と人を結びつける仕事の多くが、ECやクラウドソーシングなどのデジタルワールドへ移転しています。

 新型コロナウィルスに限らず「想定外の変化」がいつでも起こり得る時代に「安泰な職業」というものはすでに幻想なのかもしれませんが、クラウドソーシングで調達されるコンテンツやデータを扱う仕事、すなわちデジタルシフトを迫られるウィズコロナ社会を下支えする仕事が当面その価値を失うことはなさそうです。むしろどの業界の誰にとっても、リモートでデジタルに働けるスキルは必須になっていくのでしょう。

 短期的には雇用の受け皿、中期的には人生100年時代を見据えたスキルシフトのチャンスとしてクラウドソーシングに期待しつつ、一人ひとりの知恵、そして働く人びとを守る政策には、まだまだ磨きが求められるように思います。

<TEXT/上級ウェブ解析士 清水響子>

法政大学院イノベーション・マネジメント専攻MBA、WACA上級ウェブ解析士。CRMソフトのマーケティングや公共機関向けコンサルタント等を経て、現在は「データ流通市場の歩き方」やオープンデータ関連の活動を通じデータ流通の基盤整備、活性化を目指している

【調査・分析データについて】
ネット行動分析サービスを提供する株式会社ヴァリューズが提供する、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「VALUES eMark+」を使用しました。データはヴァリューズ保有のAndroidスマートフォンモニター(20代以上)での出現率を基に、国内ネット人口に換算して推測しています。

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