“事故物件住みます芸人”が生まれた理由「人が嫌がることにチャンスがある」
2012年から事故物件に住みはじめ、心霊スポット巡りの配信や怪談イベントの主催など、独自の路線をひた走る芸人・松原タニシさん(37)。
ベストセラーとなった著書『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房)は亀梨和也さん主演で映画化が決定し、2020年8月に全国公開を控えている。ある意味で今、もっとも注目されている芸人だ。
いわゆる“お笑い”とは一線を画す活動のなかで、彼が培ってきたものはなんだろうか。若いビジネスパーソンの悩み解決の糸口を探るべく、「事故物件住みます芸人」という特殊な肩書きを持つ彼にインタビューを敢行した。現在、高い壁にぶつかっている方にはぜひ参考にしてほしい。
保険のひとつが「事故物件に住むこと」
――このメディアって20代の読者が多いんですけど、松原さんは後輩芸人にアドバイス求められたら、どんなふうに対応するんですか?
松原タニシ(以下、松原):答えないですね(苦笑)。なにかアドバイスをした時点で自分が成功してるって認めちゃうことになるから、それが僕は嫌で。「その通りやったのに違ったじゃないですか!」とか言われたら、「言わんといたらよかった」ってなるし。後輩のためじゃなくて、自分のためにアドバイスしないっていう。
――ある意味誠実かも……。とはいえ、松原さんは事務所の先輩・北野誠さんから「事故物件に住んでみないか」と言われたのがターニングポイントになっています。その前段階で準備していたことってあったりしますか?
松原:2012年に『北野誠のおまえら行くな。』の怪談トークイベントに出演して、事故物件に住みはじめたのが芸歴10年目くらい。ちょうどその頃、『アメトーーク!』とかで「○○芸人」とか、なにかに特化した芸人が番組に出られた時代だったんです。
だからといって急に「虫マニア」とか「鉄道マニア」とかアピールするのは違うって思ってたし、『エンタの神様』みたいなネタ番組がゴールデンを賑わせている時代にあそこに行けなかったっていうのもあって。そこで、けっこういろんなことを「あきらめることができていた」っていうのはあります。
じゃあ、どうしようと考えたときに、保険をいっぱいつくろうと。お笑いって評価が難しくて、自分が面白いと思ってたことが評価されなかったり、別のところでウケてあとから急に評価されたりする。
そういうのが嫌になってきて、別のところ……たとえばお芝居に手を出してみようとか、何かの文化に特化したものを持っておこうとか。とにかく、いろいろ持っておこうっていう発想になっていきましたね。そのうちのひとつが事故物件だったのかなと。
前例がないから戸惑わず活動できる
――すると、事故物件に長く住んでいるのは、自分の興味が持続しているからってことですか?
松原:そうです。ほかと比べるものもないですしね。お芝居だったら、演劇の世界に重鎮がいて、その人に認められないといけない。お笑いも同じですよね。「事故物件の重鎮って誰だろう?」って思ったら、誰もしていないから自分で道を見つけていけるというか。前例がないから、なにかを間違えるとか周りからの評価に戸惑うことなく活動できるだろうと思ったんです。
――前例がないから、周りの評価にしばられることもないと。ちなみに現在、『異界探訪記 恐い旅』に続く新しい本も執筆中ということですが、半年間で2ページしか書けていないとか。
松原:それが一番ゾッとしますね(苦笑)。宿題できない小学生みたいな。今日も書くために一応、場所(出版社の一室)を提供してもらってという感じです。出版社の方にしたら、本当はもっと書いてほしいと思うんですけどね。