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日本と海外の映画業界の”ざんねんな違い”。鬼才監督が語る

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フランスよりも少ない日本の映画助成金

よこがお

©2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

――監督は7年前に映画の多様性を創出するNPO団体「独立映画鍋」を共同設立しています。フランスが生産する映画本数は、日本の約半数なのに、政府の助成金は年間約800億円と、日本の文化庁が映画に出す助成金(年間約20億円)の40倍にもなるそうですね。

深田:経産省のクールジャパンの助成金から映画にどれだけのお金が流れているのかも実際に資料がないので、この数字ははっきりしないのですが、それを入れると日本の助成金も20億円よりはもう少し高くなるとは思います。ただフランスと比べると絶対的に低いでしょうね。

――なぜ、日本はフランスをお手本にすることができなかったのですか?

深田:よくも悪くも独自の映画文化が栄えていたことが原因のひとつでしょう。黒澤明、小津安二郎、溝口健二が大活躍していた1950年代には撮影所があり、毎週のように映画が大量生産されていました。その撮影所のシステムが非常に上手く機能していたから、日本映画界は業界内で競争するなかで産業が発展し余剰があったので映画の多様性も守られてきた。

 当時は、監督、製作者、俳優、衣装、現場の人間全員が映画会社の社員でしたが、現在では現場の多くのスタッフはフリーランスです。時代が変わったのに、既存の制度はなかなか変わりきれていない。一部の大手の映画製作会社だけではなくて、インディー系の映画製作会社をも巻き込んだ制度を行政が作れていないことが問題でしょう。

国際共同制作にするメリット

よこがお

メイキングの深田監督

――監督はカンヌで映画賞を受賞した後も、結婚式のカメラマンをされていたと聞きましたが、実際に映画監督は稼げないのですか?

深田:「カンヌで賞を取ったけど、来月の家賃が払えるかどうか心配」と私が言った記事ですよね? そのちょっと前からは、もう結婚式のカメラマンの仕事はしていなかったんですが、逆に映画制作で忙しくなったのに、映画からお金がとれないから貧乏は加速していましたよ。もちろん、カンヌで賞をとった後の生活は、だいぶ楽になりましたが、同年代の39歳の会社員に比べれば年収は、はるかに少ないです(笑)。

――意外です。本作はフランスの資本が入った国際共同製作ですが、クリエイターとしてのメリットは何なのでしょう?

深田:市場を拡大するということが作り手にとって最大のメリットです。なぜなら、原作のない長編映画というのはある意味、担保のない状態で、配給するリスクが高いんですね。手間暇も、お金もかかる長編映画だからこそ国をまたいで合作することでリスクを減らすことは、作りたい映画が作るためのひとつのよい方法です。

 クリエイティブの面でも、今回はポストプロダクションの音響や編集でフランス人にかかわってもらったんですが、自分の育ってきた文化圏とはまったく違った文化圏の人々によって自分の作品が解釈され、自分が思ってもいなかった発想が入ってきました。

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