台湾地震の支援表明に秘めた中国の狙い。台湾側が「必要ない」と距離を置く意味とは
台湾東部沖を震源とする強い地震が3日に発生した。能登半島地震の記憶が新しいタイミングで今度は台湾で、大地震が発生した。
東日本大震災や能登半島地震で、繰り返し台湾から支援を受けてきた日本では「台湾を支援するべき」との声がSNS(会員制交流サイト)上で大きくなっている。
日本政府も、これまでの同国の支援に対する謝意を示した上で、支援の用意があると見解を示した。
しかし、日本政府によると、台湾側からの要請は現時点でないそうだ。その背景には、さまざまな理由が考えられる。その中には、台湾海峡を挟んで隣り合わせる中国の存在も影響しているらしい。
そこで今回は、国際安全保障、国際テロリズム、経済安全保障などを専門とする和田大樹さんに、台湾東部沖を震源とする地震の復興支援をめぐる中台の狙いを教えてもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。
中国側に災害救助に協力してもらう必要性はない
4月に入り、親日的な台湾の東部を大地震が襲った。影響は、沖縄県にも及び、石垣島、宮古島、与那国島など台湾に近い先島諸島を中心に津波が観測された。
春休み最中だったため那覇空港は大混乱となった。安全保障研究の関連で先島諸島を筆者も幾度か訪れたが、あの奇麗な海に津波がやってくるなど今でも想像しがたい。
3.11、および今年初めの能登半島地震に見舞われた際、積極的に日本を支援してくれた国が台湾だ。
今回は、その台湾が被害者となってしまったため、日本としても積極的にしていくべきだろう。日本政府もその姿勢を示している。
一方、習政権で台湾政策を担う国務院台湾事務弁公室も4月3日、台湾東部を震源とする地震を受け「被災した台湾同胞に心よりお見舞い申し上げる。今後の状況をみて救援を行いたい」との意思を表明した。
しかし、台湾で中国政策を所管する大陸委員会はお礼の意思を示しながらも「中国側に災害救助に協力してもらう必要性はない」と距離を置く発言をした。
世界では、毎年のように大規模な自然災害が発生し、被害に遭った国に対して哀悼の意と共に各国は支援を申し出る。
当然だが、こういった状況では政治的思惑が働いてはならない。人道的視点に立って支援を進めていく必要がある。
その意味で、今回の中国側の発言にどこまで政治的思惑が働いていたかは断定できない。しかし、台湾側には明らかに、政治的な懸念が込められていたと言える。
将来侵攻してくるかもしれない人民解放軍の兵士が台湾の土を踏む
さまざまな懸念が台湾側にはあろう。その1つには、中国の人民解放軍が台湾東部の救援や復興に協力するとうシナリオが挙げられる。
一般に、外国の軍隊が支援活動を被災地で行う姿は見ていて悪い印象はない。あくまでも支援活動だからだ。
しかし、台湾と中国の政治的・軍事的な緊張が漂う今日、人民解放軍が台湾東部で支援活動する姿を台湾市民、われわれのような外国人はどう見るだろうか。
目的はどうであれ、将来侵攻してくるかもしれない人民解放軍の兵士が台湾の土を踏むのだ。
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習政権は、台湾統一のためには武力行使も辞さない構えだ。香港の中国化が貫徹した今日「次は台湾だ!」という思いがあろう。
今回の中国側の発言には、復興支援という非政治的な分野で真摯(しんし)な、および誠実な姿勢を見せ、台湾市民の気持ちを引き付けた上で、台湾統一に向けて有利な環境を整えていきたいという思いがあったと考えられる。
もしかすると、台湾侵攻を想定した現地調査という狙いも見えないわけではない。
いずれにせよ、政治的な緊張が強い中台間では、復興・人道支援すら上手くいかない状況があると言えよう。
仮に今後、日本や欧米諸国による支援が拡大すれば、政治的思惑が中台間で露骨に働いていたと鮮明になる。
しかし逆に、その露骨さを避けるために、日本や欧米諸国からの支援も台湾側が等しく受け入れない状況も考えられる。
市民レベルでは、恩返しの支援を積極的に行いながらも、各国の支援を台湾側がどのように受け入れるか、あるいは支援の要請を出さないまま終わるのか、一方で注視しておきたい。
[文・和田大樹]