神奈川の港町で、若い夫婦が営む小さな出版社ができるまで
「アタシ社」は、編集者ミネシンゴさん(34歳)、デザイナー三根かよこさん(32歳)の夫婦2人からなる出版社です。
クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」で調達した資金で創刊した美容文藝誌『髪とアタシ』を皮切りに流行に囚われない独自の本づくりに励んでいます。創立の経緯や、2人で営む出版社に対する思いに迫るべく、神奈川県三浦市三崎町の事務所兼、蔵書室「本と屯」を訪ねました。
→インタビュー中編<“消滅可能性都市”から発信する「ふたり出版社」夫婦の挑戦>はこちら。
出会いのきっかけはブログへのコメント
――神奈川県・三浦市を拠点にアタシ社を営む2人ですが、先ずはそれぞれキャリアや馴れ初めをお聞かせください。
ミネシンゴ(以下、シンゴ):僕のキャリアからお話すると、美容師として働き始めて、それから美容専門誌を作っている出版社、リクルートで働いて独立という経緯になります。
今から10年くらい前なんですけど、宣伝会議が運営しているセミナーに通ってた時期があるんですよ。妻のかよこが宣伝会議のことを調べるうちに、僕が美容師時代から続けていたブログの記事にたどり着いたみたいです。
記事にコメントを残してくれたのがきっかけで、編集や広告のことで情報交換をするようになったのが馴れ初めです。
三根かよこ(以下、かよこ):Twitterとか流行ってない頃に、ミネ君はブログで自分なりの言葉を何年も綴ってたんですよね。自分の周りにはいないタイプでした。
新卒で入社してからずっとリクルートで働いていたこともあって、私にとって世界の中心はリクルートでした。だからこそ、自分の知らない世界の人と繋がりたいという気持ちのほうが大きかったですね。出会った頃、彼は鎌倉で美容師をやっていました。毎週末、会うのを繰り返すうちに付き合うことになりました。
2人が夫婦になってアタシ社設立へ
――アタシ社を立ち上げるようになったきっかけは?
シンゴ:美容師をやめて、かよこと本社で働いていて、僕は『ホットペッパービューティー』、かよこは『ゼクシィ』という媒体に携わっていました。
僕は3年半の契約社員だったんですけど、契約更新が近づいてきた頃にクラウドファウンディングが注目され始めて、自分で雑誌のプロジェクトを立ち上げたんです。そこで一部資金も調達できて、在職中の2013年12月に『髪とアタシ』の創刊号を出しました。
そのとき、かよこはディレクションや制作進行に関わりながら、桑沢デザイン研究所の夜間部デザイン専攻科に在学していました。
かよこ:在職中に、自分でも手を動かすクリエイティブな仕事がやりたいと思うようになりました。ミネ君と知り合ってから目標が具体化してきて、桑沢みたいなところで、イチからデザインを勉強し直したら、もっと幅広い可能性も考えられるのかなって思ったんですよね。
結果論にはなりますけど、そもそもミネ君と知り合ってなかったら桑沢で勉強し直すという発想も生まれなかったし、彼も雑誌を創刊してなかったかも知れないですね。