地域を“発電所”に変える!屋根がなくても再エネ導入可能な「循環型電力」とは?

電気料金の上昇や脱炭素への対応が、企業にとって大きな課題となっています。コストを抑えながら環境にも配慮した電力の確保が求められる中、2025年7月、太陽光発電事業を手掛けるアイ・グリッド・ソリューションズが「循環型電力」という仕組みを発表。太陽光発電で生まれた“使いきれなかった電気”を、地域や企業の中でムダなく活用し、太陽光パネルを設置できない施設でも、すでに発電された再エネを利用できるサービスだといいます。この新しい選択肢が、電力の使い方にどんな変化をもたらすのか、サービスの狙いや開発の背景を取材しました。
活用しきれていない再エネを地域で循環
太陽光発電は日中しか発電できず、また建物の電力需要が少ない休日などには、発電しても使われない「余剰電力」が発生しています。この電気は通常、出力制御や抑制により活用されずに終わるケースも少なくありません。
「せっかく屋根が空いているのに活用しきれていない。逆に、再エネをもっと利用したいのに設備が設置できない施設もある。だったら、使いきれない電気を使いたい施設に届ければいいと考えたんです」と語るのは、アイ・グリッド・ソリューションズ代表取締役社長の秋田智一氏。
この仕組みでは、同社の全国1,200以上の発電設備のうち、300施設以上で発生している余剰電力を、他施設の昼間の電力需要にあわせて供給しているといいます。これにより、新たな発電所を建てることなく、1つの発電所分に匹敵するほどの再エネの活用を実現しているそうです。
屋根がなくても再エネ導入でコスト削減が実現
循環型電力の最大の特徴は、導入先に太陽光パネルなどの設備がなくても、すでに発電されている再生可能エネルギーを利用できる点です。日中(9時〜15時)の時間帯に20年間の固定価格で供給される電力は、電力市場の価格変動や燃料費の高騰といったリスクを抑え、安定したコストで利用できるよう設計されています。
また、すでに稼働している発電所からの供給であるため、新たな設備投資や施工期間を必要とせず、導入までのリードタイムが短い点も特徴です。
導入にあたっては、建物の構造や契約上の制約に左右されないため、流通小売業や物流施設、工場などでの利用を想定。実際に導入した企業では、従来の電力契約よりも最大7%のコスト削減が実現できたといいます。また、店舗や物流センターの使用電力量のうち、30〜50%を再エネでまかなえるようになった事例も報告されているそうです。
環境も経済もあきらめない

秋田氏がこの事業に本格的に取り組むきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災の経験があると語ります。
「震災以降、日本のエネルギー政策は見直しを迫られました。原発に偏った電源構成から、より持続可能なものへと切り替えていく必要性を強く感じました」
秋田氏は、単に理想を追いかけるのではなく、環境対策と経済合理性の両立が重要だと強調します。
「環境に良いことでも、それが経済的に成り立たなければ続けられません。だからこそ、再エネを“ビジネスとしてきちんと回る仕組み”にする必要があると考えました」
この現実的な視点こそが、循環型電力の設計思想に表れています。再エネの“導入ハードル”を下げ、初期投資なく、既存の発電所から再エネを調達できるモデルは、環境対応を経営戦略に組み込もうとする企業にとって新たな選択肢となり得ます。
同社は、再エネ導入に伴う電力需給の不均衡(同時同量の原則)や、予測との乖離に対するペナルティといった制度的ハードルを、独自のAIプラットフォームの開発によって最適化することで、使いきれない電気を無駄なく他施設に届けることを可能にしています。
再エネを「作る」から「使い切る」時代へ

再生可能エネルギーの導入が進む中で、「発電量を増やす」だけでなく、「いかに無駄なく使い切るか」が問われるようになっています。循環型電力は、その課題に対して「使いきれなかった電気を他の施設へ送る」というシンプルで現実的な答えを提示しています。
「環境はお金にならない、と思われがちですが、逆に経済的にもメリットのある仕組みにすれば普及は進みます。理想や熱意だけで突っ走っているわけではありません。再エネを広げるには、現実に即したやり方が必要なんです」(秋田氏)
再エネは「一部の先進企業だけの取り組み」ではなくなりつつある中、循環型電力のような仕組みにより、電力の“作り方”だけでなく“使い方”にも多様な選択肢が生まれています。企業規模や立地条件にかかわらず、誰もが無理なく導入できる再エネの形。今後、電力の安定供給と気候変動対策の両立を目指す上で、こうした“循環”の考え方は、エネルギーの新しいスタンダードとなっていく可能性がありそうです。