自撮り棒のルーツは日本!?早すぎた発明の起源と末路【実は日本が世界初】

最近、セルフィーを撮りましたか? そのセルフィーを撮った際に、自撮り棒を使った人はいますか?
あの自撮り棒、実は、日本人が最初に開発し、特許を出願・取得したとご存じでしょうか。今回は「実は日本が世界初」の連載として自撮り棒を紹介します。
自撮り棒とセルフィ―文化
自撮り棒、英語では「selfie stick」と呼びます。この「selfie」という言葉が、オックスフォード英語辞典によって「Word of the Year」(その年に最も注目された言葉)に選ばれた年は2013年(平成25年)です。
アメリカの辞書〈Merriam-Webster’s Collegiate Dictionary〉の改定で「selfie」が追加された年は2014年(平成26年)です。
このころから、セルフィ―が世の中に定着していったと考えると、自撮り棒の流行もその前後と考えらえます。
2015年(平成27年)、MMD研究所が、スマートホンを所有する15歳以上の男女を対象に「自撮りをするか?」「自撮り棒を使うか?」と聞いた際には、21.1%の人が「自撮りをする」と答え、そのうち14.2%が「自撮り棒を利用する」と答えています。
ただ、この自撮り棒が、今から10年くらい前に、セルフィーの流行と前後して生まれたのかと言えば異なるようです。
実は、自撮りも「スマホ」もデジカメも普及していない1980年代に日本でつくられていたという事実が存在します。
カメラを宙に浮かせて自分を撮れる
この画期的な発明についてはCNN(米国)でも、中国共産党の公式機関紙〈人民日報〉(日本語版)でも紹介されているくらいですから、国際的な合意はある程度得られていると言えそうです。
開発者は、元ミノルタカメラ(現・コニカミノルタ)の上田宏さんという方で、母校である静岡大学の同窓生によるリレーエッセイに当時の話を本人が書いています。
カメラ開発の技術者として活躍していた上田さんは、円形のディスク状にフィルムを配置し、撮影するたびにディスクが回転して次のコマに移行するディスクカメラ〈DISC7〉を開発します。その際に、
“薄型・軽量カメラにエキステンダー(収縮棒)を付けて、カメラを宙に浮かせて自分を撮れる”(静岡大学のホームページより引用)
というアイデアを製品化しました。自撮り棒の原型です。
この話について、日本カメラ博物館の学芸員に取材をした日刊SPA!の記事によると、数あるカメラアクセサリーのひとつとして市場に投入された収縮棒(現在の自撮り棒)は、脚光を浴びないまま世の中から消えていったそう。
その理由としては、撮った写真をその場で確認できない、手ぶれ補正などもない当時のカメラ仕様では、満足のいく自撮り写真が撮れなかった上に、自撮りという習慣そのものもまだ、定着していなかったからなのだとか。
ただ、この収縮棒について上田さんは、実用新案出願(知的財産権の一種で、発明というよりも技術的改良に関連したアイデアや製品が対象)を1983年(昭和58年)に日本でしています。
翌1984年(昭和59年)には優先権主張出願を米国で行い、1985年(昭和60年)には、より厳格な特許法に基づく米国特許(特許番号:US4530580A)を取得しています。
特許のポイントは、以下のとおりで、これらの点が、従来の三脚などと一線を画す独自の要素とされたみたいです。
- 伸縮式ロッド:カメラとの距離を調整できるので、セルフポートレートや難しいアングルでの撮影が可能。
- グリップ:軽量で操作しやすく、持ち運びに便利。
- ヘッドメンバー:カメラの角度を調整できる回転機能付きの取り付け部分。
- コンパクトデザイン:小型・軽量で旅行や外出に最適。
しかし、この特許も後に切れて、パブリックドメイン(アイデアを誰でも自由に使える状態)になりました。上述の自撮りブームが到来した際には、もう制約はなく、さまざまなメーカーが自由に製品化を行いました。
自撮り棒をつくった理由
そもそも、上田さんは、このようなアイデアを、どうやって思いついたのでしょうか。その点については〈人民日報〉に本人の言葉が掲載されています。
当時、ヨーロッパ旅行に出かけた際、記念写真を撮りたいと思っても、シャッターを誰も押してくれなかった、シャッターを押してくれる人が現れたとしても託したカメラをそのまま持ち去られるといった出来事があったそう。
そこで、自撮り棒の発想が生まれました。上述したように、上田さんのアイデアは先進的すぎて、時代のニーズと合わなかったため、当時は注目されませんでしたが、スマートフォンとSNSの普及により数十年後に結局、価値が再発見されたわけです。
ヒット製品づくりには「優れたアイデア」と「時流」の両方が必要だという好例ではないでしょうか。日々の業務や企画に生かせそうな学びに富んだエピソードですね。
[文・坂本正敬]
[参考]
※ 【第77回】自撮り(セルカ)棒発明と流行
※ 日本のカメラマン、30年前に自撮り棒を発明 – 人民網日本語
※ 世界を変えた日本の発明品25選 <前編> – CNN
※ 第22回 「自撮り棒」 – 日本電子公証機構
※ 実は40年前に誕生していた自撮り棒。「日本の無駄な発売品」と海外で嘲笑されるも – 日刊SPA!
※ 自撮り棒 先駆者を逃した教訓 – 日本経済新聞
※ Telescopic extender for supporting compact camera – GooglePatents
※ Merriam-Webster Adds “Selfie,” “Hashtag,” and “Catfish” to the Dictionary – VANITY FAIR
※ スマートフォンカメラ利用者で自撮りする人は21.1%、うち14.2%が自撮り棒を利用 – MMD研究所