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香港とマカオは中国語じゃない!?現地で通じる“意外な言語”とは

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香港とマカオは中国語じゃない!?現地で通じる“意外な言語”とは

前回の記事では、中国大陸と台湾で話されている中国語の違いについて解説しました。会話であればコミュニケーションが取れる普通話と台湾華語とは異なり、中国の特別行政区に位置付けられる香港とマカオでは話されている言葉が大きく変わります。なんと、公用語が標準中国語(普通話)ではなく、中国語の方言である広東語なのです。この記事では、香港とマカオの公用語や生活言語についてお伝えします。

関連記事:「簡体字」と「繁体字」どこが違う? 中国と台湾で“中国語”が別物に見える理由

香港とマカオは中国大陸や台湾とは異なった言語環境

中国大陸の公用語は普通話(プートンファー)と呼ばれる標準中国語で、表記は画数の少ない簡体字を用いています。台湾では台湾華語が事実上の公用語と位置付けられており、文法や発音に若干の違いはあるものの、普通話が通じます。台湾華語では画数の多い繁体字で表記されることが、普通話との違いでした。

つまり、普通話か台湾華語が話せる人であれば、中国大陸もしくは台湾では会話を中心にコミュニケーションが取れるということになります。

ところが、同じ中華圏である香港・マカオでは、台湾のように普通話が通じるとは限りません。広東省の一部であった香港とマカオは、中国語の方言のひとつである広東語圏です。

香港は1841〜1941年と1945〜1997年の2度にわたってイギリスに統治され、マカオは16世紀にポルトガルによる植民地支配が開始された後、1887〜1999年の間、正式にポルトガル領として統治されました。このような背景から、中国大陸や台湾とは異なった言語環境にあったのです。

【香港】3つの言語が話せる人が未来のスタンダード?

公用語:広東語および英語
生活言語:広東語、英語、普通話
表記:繁体字および英語

香港では広東語と英語が法的な公用語として定められています。

広東語は中国南部の広東省を中心に話される漢語の方言です。普通話が4つの声調であるのに対し、広東語は9つの声調を持つなど音声体系が複雑で、語彙や語順も普通話と異なります。

イギリスから中国に返還された1997年以降も、英語は教育・ビジネス・法務の分野で今なお重要な言語として機能しています。政府文書や法律、裁判所などの公式場面では中英併記が基本となっています。

日常生活では圧倒的多数の香港人が広東語を話しています。2018年の調査では、6歳から65歳までの560万5,100人のうち、母語が広東語の人の割合は88.8%だったそうです。

中国本土では、1956年に始まった漢字簡略化運動により簡体字が導入されました。しかし香港では、イギリス統治下でも中国文化圏の一部として繁体字を維持し続けたという背景があり、現在でも表記は繁体字が公的に使われ続けています。簡体字は原則使われず、新聞・書籍・学校教材・道路標識に至るまで繁体字が標準です。

香港の標識の画像
香港の標識 撮影:重田信

普通話と広東語はどれくらい違うのでしょうか。簡単な例文を比較してみると以下のようになります。

(日本語:普通話/広東語)
こんにちは:你好 (nǐ hǎo)/你好 (néih hóu)
ありがとう:谢谢 (xièxie)/多謝 (dōjeh)
これはいくらですか?:这个多少钱?(zhè ge duōshǎo qián?)/呢個幾多錢?(nī go géi dō chín?)

発音も使われる漢字も大きく変わりますね。ちなみに筆者の感覚ですが、中国語の学習を始めたり、実際に中国大陸で生活をしたりして普通話に慣れてくると、広東語は別言語に聞こえました。ただ、漢字だけを眺めていると、なんとなく意味を推測できることもあるので、日本語で例えるなら、標準語と沖縄方言くらいの違いになるでしょうか。

近年では、中国大陸から訪れる観光客の増加に伴い、ホテルやショッピングモールなどの小売業を中心に、普通話を話せる香港人も増えてきました。また、小学校1年から英語と普通話が必修となっており、若い世代を中心に英語と広東語、普通話の3言語を操る香港人が増えることが予想されます。

【マカオ】公用語のポルトガル語を話す人は3%以下

公用語:広東語およびポルトガル語
生活言語:広東語、普通話、英語、ポルトガル語の母語話者はわずか
表記:繁体字とポルトガル語の併記が原則

マカオでは「中国語(広東語)とポルトガル語」が憲法上の公用語とされています。ポルトガル語は法律・行政文書に必ず用いられ、政府公式サイトや街路名などでも広東語との併記が標準です。香港と同様に、広東語で表記される文字は繁体字です。

しかし、日常生活でポルトガル語を話すマカオ人はごく少数で、母語・常用者は統計上2〜3%未満といわれています。生活言語では広東語が圧倒的多数を占めており、日常会話や家庭内で主に使われています。

以下の写真は、筆者が2023年に参加したマカオマラソンのスタート位置の様子ですが、広東語とポルトガル語が書かれています。

マカオマラソンのスタート位置の表示
マカオマラソンの表示 撮影:重田信

また、このとき中価格帯のチェーンホテルに宿泊しました。世界各国の主要都市や空港近くに多く展開するホテルなので、出張や旅行で頻繁に海外を訪れる人であれば、おそらく一度は聞いたことがあるホテルです。

チェックイン時には筆者が英語で手続きを進めていたのですが、同行者が普通話で質問すると、別のフロントの担当者に変わって普通話で答えました。たまたまかもしれませんが、マカオで働く人が必ずしも普通話を話せるわけではないということが心に残っています。

前回の記事と合わせて、中華圏で話されている言語についてお伝えしてきました。4つの地域独自の特徴があり、大まかにまとめてみると以下のようになります。

地域公用語主な生活言語使用文字
中国大陸普通話普通話、方言簡体字
台湾國語(台湾華語)國語(台湾華語)繁体字
香港広東語・英語広東語繁体字
マカオ広東語・ポルトガル語広東語繁体字

旅行や出張で中華圏を訪れることがあれば、街や空港の文字に着目することで、それぞれの地域の文化や歴史に思いを馳せることができるでしょう。

[参考]
国際交流基金 – 香港(2022年度)
主題性住戶統計調查 第66號報告書 Thematic Household Survey Report No. 66 – 香港特別行政區 政府統計處 Census and Statistics Department Hong Kong Special Administrative Region
言語 – マカオ政府観光局
What languages are spoken in Macau? – Plataforma Media

1987年奄美大島生まれ。Webメディアを中心に、書籍の著者インタビューや生成AIの活用法、中国に関するコラムなどを執筆。在外教育施設(日本人学校)の教員として、2014年からタイ・バンコクに3年、中国・深圳に5年間滞在。帰国後にライターとして活動を始める。2024年から、日本国内の小学校で講師として勤務しながら執筆を続けている。

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