iPhoneなくしてもお金が戻る税制度があるって本当?【ネットでうわさの真相を究明】
今や、スマートホンは生活に欠かせない。しかし、日常的に携帯が欠かせなくなった「スマホ」だからこそ、紛失・盗難のリスクは高まる。
しかし「スマホ」を万が一なくしても、税金による救済策「雑損控除」が存在するとネット上の情報にある。この話は、本当なのか。
そこで今回は、iPhoneなどの「スマホ」を盗まれた・紛失した際に、お金が戻ってくる(とうわさの)税制度「雑損控除」について、ライターの一ノ瀬聡子さんに調査してもらった。
税理士の廣岡実先生にも監修してもらった信ぴょう性の高い内容だ。ぜひ、最後まで読んでもらいたい(以下、一ノ瀬聡子さんの記事)。
経済的な負担を軽減してもらえる税制度
自分の「スマホ」をなくしたら、大変なダメージだ。iPhoneなどはモデルによって20万円くらいする。
もちろん、機器自体の補償は、端末の紛失・盗難補償サービスに加入していれば全額戻ってくる場合もある。近年は「スマホ保険」もある。
しかし、それだけではないらしい。「スマホ」をなくした際の損害について、経済的な負担を軽減してもらえる税制度があるとネット上で語られている。この話は本当なのだろうか。
結論から言うと、自分の落ち度でなくした場合、税の救済策はない。ネット上で参照する情報によっては誤解が生じそうなポイントだ。
しかし災害、盗難、および横領で失った、言い換えると、自分に落ち度がない理由でなくした「スマホ」であれば救済策がある。
「スマホ」を盗まれた、または災害に遭って消失したら、復帰するために支出した金額の証明書類を添付して、最寄りの税務署に「3月の確定申告」で申告する。
会社員にとって税務署は無縁かもしれないが、ホームページで調べればいくらでも情報が出てくる。
結果として後日、支出したお金のうち一定額が指定の銀行口座に還付金として戻ってくる場合がある。その仕組みを「雑損控除」と呼ぶ。
「所得控除」は税の公平性を保つための仕組み
雑損控除をもう少し詳しく説明しよう。自分の資産(この場合は「スマホ」)が自然災害や人為災害、盗難、横領によって損害を受けた場合に適用される所得控除制度を雑損控除という。
そもそも「所得控除」とは、税の公平性を保つための仕組みだ。やむを得ない事情で経済的な支出が大きくなった人は、納税額の負担を軽くしてもらえる。
例えば、子どもなどを養っている人向けの「扶養控除」、医療費が一定額を超えた人向けの「医療費控除」などがある。それらと同じ所得控除の1つが雑損控除だ。現時点で所得控除は15種類ある。
いずれも、税金の課税対象となる所得額(収入から必要な経費を差し引いた額)から一定の金額を引き、課税所得額を減らし、払うべき税金の額を減らす措置だ。
ただし、損害にあった金額がそのまま戻ってくる制度ではない。あくまでも、損害にあった金額に税率をかけた所得税(住民税)が戻ってくる仕組みだ。
当然、所得税を1円も払ってない人は何も戻ってこない。注意が必要だ。
計算式の結果ゼロかマイナスになる場合も
雑損控除は、適用されるケース・適用される人・適用される対象が決まっている。
契約者本人(税金を払っている人)が自分の「スマホ」を盗まれた、火災などの人為災害に巻き込まれて「スマホ」を失った、自然災害で「スマホ」をなくしたなどの場合は、雑損控除が適用される可能性が高い。
どのくらいの金額が控除されるのか。状況によって戻ってくる金額が変わるが、以下のような2つの計算式がある(数字の大きい方が採用される)。
(1)(損害金額+災害等関連支出の金額ー保険金の額)ー(総所得金額等の10%)
(2)(災害関連支出の金額ー保険金等の額)ー5万円
ちょっと難しい言葉が並んだ。(2)の「災害関連支出の金額」とは災害に限定されたケースに限る。盗難や横領による損害の支出には該当しない。
仮に、購入したばかりのスマホを盗まれたと仮定して、スマホ保険に加入していたため5万円の保険金を受け取り、同じ機種のスマホを同じ値段で購入できたとする。
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損害金額:20万円(盗まれたスマホの時価額)
災害等関連支出の金額:新規スマホ購入代の負担額15万円
保険金等の額:5万円
総所得金額等: 270万円
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このケースを「(損害金額+災害等関連支出の金額ー保険金の額)ー(総所得金額等の10%)」にあてはめると、
(20万円+15万円ー5万円)ー27万円=3万円
となり、3万円が控除される。
ただ、手元に戻ってくるお金は、この3万円に税率を掛けた金額だ。
この例だと税率は10%、さらに復興特別所得税が2.1%プラスされるため、戻ってくる金額は約3千円となる。
損害金額が少なかったり、保険金をたくさんもらったりした場合は、計算式の結果はゼロかマイナスになる。控除は受けられない。
ネット上の情報は真実ではあるが「スマホ」のケースで考えると、現実的な利用が思うほど考えられない制度とも言える。
また、繰り返すが、会社員の場合、会社とは関係ない話なので税務署に自分で行き、確定申告をする必要がある。その手間も含めて、制度の利用を検討したい。
[監修]
廣岡実
税理士法人TOTAL神田事務所所長・税理士
1959年(昭和34年)生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部を卒業。大学卒業後、大手商社に就職。会社員として経理・総務部門の実績を積む。税理士であった父親の病気をきっかけに退職し、父の税理士事務所で修行。1995年(平成7年)税理士資格取得と同時に税理士廣岡事務所を設立。2024年(令和6年)1月より税理士法人TOTALのパートナーとして合流し、神田事務所所長となる。 「みんながもうけてほしい」をモットーに顧客の立場に寄り添ったきめ細かいアドバイスが人気を集め、各種フリーランスや中小企業の顧客を増やし「先生のおかげで起業できた」「事業が拡大した」という声も多い。著書に〈お金の管理が苦手なフリーランスのための お金と税金のことが90分でわかる本〉(アスコム)がある。