世界のLCC「変な名前」多い説。ライオンにトラにトキに昆虫まで多彩な格安航空会社名の由来のなぜ
航空会社と言えば、日本航空、ブリティッシュエアウェイズ、エールフランスなど国名を付けた社名だったり、サウスウェスト航空、デルタ航空など地理を表す名称だったりの印象がある。
しかし一方で、格安航空会社(LCC)の名称は、ちょっと変わった名前、ひねった名前が多い印象だ。
例えば、Peach Aviation(大阪府)の名称は就航当初、格安を意味する英単語「Cheap」を並べ替えて「Peach」にしたという驚きの由来を持っている。
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そこで今回は、航空ジャーナリストの北島幸司さんに、ちょっと変わった名前の格安航空会社(LCC)の由来を教えてもらった。
併せて、航空管制との間で使われる各航空会社のコールサインも教えてもらったのでぜひ、最後までチェックしてもらいたい(以下、北島幸司さんの寄稿)。
客室乗務員がトラ柄のスカーフを巻くLCC
現在、台湾には、フラッグキャリアからコミューター航空まで7社のエアラインがある。その中で、唯一の格安航空会社(LCC)がタイガーエア台湾だ。それにしても、動物(タイガー)が社名とは珍しい。
もちろん、格安航空会社であろうとなかろうと、翼を備えて空を飛ぶエアラインのデザインモチーフに鳥が使われるケースは多い。まさに、わが国の日本航空(JAL)はツルを尾翼に描いている。
アルゼンチン航空、ビーマンバングラデシュ、セブパシフィック、ガルーダインドネシア、ガルフエア、イラク航空、クウェート航空、ルフトハンザドイツ航空、シンガポール航空、スリランカ航空、厦門(アモイ)航空(アルファベット順)など、デザインモチーフに鳥を使っている会社の例は枚挙にいとまがない。
しかし、タイガーエア台湾は4足歩行の肉食獣が社名なのだ。タイガーエア台湾の名前のわけを知りたくて台湾へ向かった。
まず、企業のオフィシャルの回答を紹介したい。タイガーエア台湾に社名の由来を聞くと、
「”Tigerair Taiwan” originally leased the brand name from “Tigerair” (欣丰虎航, based on Singapore) and bought the brand back in 2021 and became the only airline which use “tigerair”. 」
という回答があった。
「『タイガーエア台湾』はもともと、そのブランド名を『タイガーエア(欣丰虎航、シンガポールを拠点とする航空会社)』からリースしていましたが、その名称を2021年に買い取り『タイガーエア』を名乗る唯一の航空会社になりました」
日本語にすると以上のような意味だ。そのユニークな社名を、働く人たちはどのように思っているのか。
台北から台南、高雄と巡り、高雄発成田行きIT282便に乗る旅の中で、客室責任者(同社ではキャビンインチャージ)のJanetさんに社名について聞く機会があったので印象を聞いてみた。
「トラは、格好良くて力強い動物です。勇気があり、お客さまを守ってくれます」(Janetさん)
トラは勇敢に空を浮かび、利用者を安全に目的地へ送り届けてくれる生き物なのだろうか。確かにトラは「1日にして千里を行き、千里を帰る」とされている。
さらにトラは、縁起のいい動物ともされている。黄金色の模様は金運の象徴とされており中華圏で愛されている。
中国語で同社は「台湾虎航」と表記する。漢字で見た方が日本人には親近感が増すのではないか。言われてみると、航空会社に悪くない名称かもしれない。
客室乗務員が着用するオレンジ色の制服のシャツ肩口にも「台湾虎航」と刺しゅうされている。パンツは、ベルトを使用するのではなく、トラ柄のスカーフを巻いている。
日本に到着し飛行機を離れる際に、4人の客室乗務員全員が、トラの手のポーズでさらなる利用を呼び掛けてくれた。動物が社名になると、このようなPRもできる。実に、若々しくて楽しいエアラインだ。
さらに、同社の名前を印象深くしている点として、ICAO(国際民間航空機関)で定めた、航空管制との間で使われるコールサインも挙げられる。
コールサインでタイガーエアは「スマートキャット」と名乗っている。
トラはネコ科の生き物だ。何ら不思議ではないが「スマート」を付けるあたりが格好いい。管制官とパイロット間の業務で使用されるニッチな名前に込められた工夫にも粋を感じる。
タイガーエアだけでなくライオンエアも
タイガーエア台湾だけではない。世界の格安航空会社(LCC)には他の動物も居る。例えば、インドネシアの「ライオンエア」が有名だ。
トラと同じく、最強の肉食獣の名前を使った航空会社だ。格安航空会社(LCC)でありながら、インドネシア最大のエアラインである。百獣の王ライオンそのままに力を持って、インドネシア最大の航空会社にのし上がった。ちなみに、コールサインは「Lion Inter」だ。
他にも、タイのNOK Airが挙げられる。タイ語で「鳥」「鳥のくちばし」を意味する格安航空会社(LCC)だ。同社は、就航する機体の機首部分にくちばしを描いている。飛行場で、目立つことこの上ない航空会社だ。
国内にも例がある。新潟で就航し話題になったトキエア(新潟県)だ。日本の地域航空で、新潟を拠点にする格安航空会社(LCC)である。言うまでもなくトキは、新潟県の鳥で、天然記念物でもある。
広い世界には「昆虫のハチの羽音」を意味する「Buzz」を社名にしたポーランドのエアラインもある。
そのような名称を聞くと一部の人には、うるさいイメージが浮かぶかもしれない。しかし、航空ジャーナリストとしての私見だが同社は、静かに飛ぶイメージがある。
動物や生き物を離れ、ひねった社名という切り口で言えば、コロナ禍に就航したZIPAIR Tokyo(千葉県)もユニークな社名の航空会社の仲間に入れていいだろう。
「ZIP」とは「元気よくやる」という意味合いの英単語だ。ジッパーを上げ下げする時の「ビュッ」という音から、活力、精気、勢いよく進むという意味を持つ。コールサインは「Zippy」だ。「軽快な」「小回りが利く」「元気いっぱいの」という意味になる。
以上のような格安航空会社(LCC)は文字どおり格安運賃を武器にしている。比較的若年層の利用者にターゲットを向けているため、覚えられやすい、キャッチーな社名を付けるケースが散見される。
2023年(令和5年)の年間訪日外国人数は2千5百万人を超えた。タイガーエア台湾の本拠地である2位の台湾は420万人を超える数で韓国に次いで来日者数が多い。
これからも、友好関係の続く国家と都市を結ぶ路線として同社には、翼を広げ続けてほしい。
[取材・文・写真/北島幸司]