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ガーシーのNHK党、参政党がまさかの議席獲得…参院選の真価が問われるのは6年後

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手話に磨きがかかっていた今井絵理子候補

 さて、今回の参院選はトピックスがたくさんあったと述べました。どんな見どころがあったのか? それについても触れていきたいと思います。

 まず、多くの政党や立候補者が街頭演説に手話通訳を同行させていたことです。これまで街頭演説に手話通訳を帯同させることは珍しかったのですが、立民の枝野幸男代表(当時)が導入してから、他党も追随するようになりました。通訳のスケジュールや費用面もあるので、すべての街頭演説に手話通訳が立ち会うわけではありませんが、かなりの頻度で見かけるようになっています。

 れいわ新選組も手話通訳者を帯同させていますが、都合がつかない場合はAIによる自動文字起こし機能を活用。まだAIによる文字起こしは不完全な部分が多いのですが、こうした最新テクノロジーを使って少しでも政治参加できる環境を整えようとしている姿勢が窺えます

参院選

今井絵理子候補は、街頭演説で手話を用いて政見を訴えていた

 自民党から全国比例で出馬した今井絵理子候補は、2016年の初出馬時から自身で手話通訳をしながら街頭演説をしていました。今井候補は国会議員に当選する前から埼玉県が制定した手話言語条例の成立にも助力しています。そこから政治家へと歩み始めるわけです。つまり、今井候補にとって埼玉県は政治家の出発点ともいえます。

 再選を目指した今回は、2016年よりも手話に磨きがかかっていました。今井候補の街頭演説には多くの応援弁士が集まってスピーチをしましたが、そのときも今井候補が同時に手話通訳をしていたのです。手話はその文字列から手の動きから言葉を伝えると思われがちですが、口の動きも重要です。そのため、今井候補はマスク着用ではなく、口元が見えるマウスシールドで選挙戦に臨みました

多様性を示した乙武候補とアルフィヤ候補

 手話通訳が政治の場で一般化しても、健常者にはメリットがないと考えてしまう有権者は多いかもしれません。しかし、政治の場に手話通訳が普及することは単に障害者が政治参加できるようになったというだけの小さな話ではありません。誰でも政治参加できる環境が整えられることは、政治が誰も取り残さないというメッセージでもあるのです

 私たちが暮らす社会は、健常者や順風満帆な人生を送ってきた人だけで成り立っているわけではありません。障害者やLGBTQ、海外にルーツを持つ人といったマイノリティの人たち、両親に恵まれなかった人、事故や病気で生活が苦しくなってしまった人など、さまざまな人がいます。

 そうしたマイノリティの政治参加は、一票を投じるという有権者側に限定されていました。しかし、今回の参院選には多くのマイノリティが立候補したのです。筆者が取材した候補者の中で、特に印象的だったのが東京選挙区から無所属で出馬した乙武洋匡候補と自民党から全国比例で出馬した英利アルフィヤ候補です

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乙武洋匡候補は東京選挙区から無所属で出馬。残念ながら、当選を果たせなかった

『五体不満足』のベストセラー作家として知られる乙武候補は、四肢欠損という生まれつきのハンデを抱えています。アルフィヤ候補は福岡県九州市の生まれですが、両親は中国のウイグル出身です。日本人にとってウイグルは馴染みがありませんが、アルフィヤ候補が出馬することによって、ウイグルを身近に感じるようになった有権者もいたことでしょう。

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ウイグル出身というルーツを持つ英利アルフィヤ候補。今回は力及ばず

 残念ながら、乙武候補・アルフィヤ候補とも、当選は叶いませんでしたが、多様性を大切にする候補者が現れる端緒を切り開いたといえるでしょう。

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