オリパラで話題の“手話通訳者”が明かす「海外の固有名詞に苦労した」開閉会式の裏側
楽しい雰囲気を伝えられるよう意識
――フィーダー、カンペ、カメラなど、見なくてはいけない場所が多いですね。
野口:手話は、視線にも意味が含まれるので、不自然にカメラから視線が外れないようにも心がけながらやりました。今回は、ろう通訳とフィーダーのペア3組6人で通訳を行ったんですが、ろう通訳者が式の映像を見るときはフィーダーから目線が外れてしまいます。なので、モニターのそばに別のペアのフィーダーがいて合図を出すなどして、6人が協力して放送をつくりました。
――言葉として情報のあるニュースなどより、今回のように音楽やダンスなど、言葉の介在が少ないコンテンツではどんな部分を意識しますか?
野口:私はNHKの手話ニュースのキャスターをしていますが、情報を正確に伝えることに重きが置かれるので、「かたい」表現になることが多いです。ですが、オリパラの開閉会式はエンタメ要素が強かったので、かたくならず楽しい雰囲気も伝えられるように意識しました。
――楽しそうな表情が見ていてとても印象的でした。
野口:ろう者にとってみれば、特にオーバーなことをしているわけではなかったんですが、手話を知らない人たちからは「顔芸」っていう声もあがっていたみたいですね(苦笑)。
通訳者が見やすかったことが好評
――放送後、周囲の反応はいかがでしたか?
野口:ろう者はほとんどの方が喜んでくれました。これまでは、ワイプの中に小さい通訳者が写っているだけだったので、見にくかったんですよ。けれど今回は、通訳者が大きく映っていたので見やすかったと評判でした。手話通訳を仕事にしている聞こえる方からも「手話通訳のモデルになる表現がたくさんでてきた」という声がありました。
手話通訳者はこれまで、ろう者から意見されることがなかったので、自分の通訳がどう受け止められているのか、あまり分かりにくい部分があったと思うんです。そんな中でろう通訳の手話を見て、この場面はこんな風に通訳をするのが、ろう者にとっては良いのかという参考になる表現がたくさんあったみたいですね。
――否定的な意見もありましたか?
野口:手話通訳はこれまで、聞こえる人の仕事だったのに、ろう者も通訳をするようになると、自分たちの仕事が奪われると感じる人もいたようです。
――それを聞いて、野口さんはどうお感じになりましたか?
野口:ろう通訳はひとりでは通訳ができません。聞こえる通訳者をフィーダーとするので本当は協力関係にあるはずなんです。ですから、仕事を奪う気持ちは全くなく「聞こえる通訳者とともに日本における手話通訳の質を少しでも上げられたらと思っていただけに、とても残念に思いました。