「その道のプロが集まる」会員制バーで副業したら…まさかの結果に
その店はビルとビルの間から東京タワーが見えるロケーション抜群の隠れ家。地下にあるカウンターだけの7、8席のバーでは、立ち飲みをする人を合わせると10人ちょっとでいっぱいになる店でした。
「チャージ1000円で、ドリンクが1杯800円、ワインが一本3000円からで、ウィスキーのボトルは1本5000円、ドンペリは5万円でした。
おつまみや軽食は自分で作り、経費をのぞいたフードの売上はそっくり私に入ったので、やりがいもありました。当時の年収が400万円だったので、月10万円の副収入は私にとって高額で、しかも予想通りにネットワークが広がり、有意義でしたね」
ある日、役員会に呼ばれて…
ところが、せっかくの副業を辞めさせられるだけでなく、減給という厳しい処置が下されたのです。
「12月に入ったある日、突然役員会に呼ばれました。副業を承諾した上司も一緒でした。役員会で副業のことが報告されると、『反省しています』と頭を下げさせられました」
誰が密告したのかわかりませんが、役員の耳に入り、それで謝罪だなんて、ヒドい話です。
「しかも3か月も10%減給なんてやりすぎ。私だけでなく上司も一緒です。一体役員たちは、会社の就業規則を読み込んでいるんでしょうか」
星野さんは憤慨しただけでなく、会社に対する不信感が募ったと言います。
「昨年の春に、会社がクループ会社に統合されて、経営陣が一新されました。その時に親会社から就任したのが、今の経営陣。
元金融関係の社員がうちの会社の役員になったため、会社の方針がとても堅くなりました。広告代理店のカラーにまったく合わない役員たちは、就業規則で禁止されていない副業を『けしからん』と頭ごなしに決めつけたんです」
減給は戻ってくるも思わぬ結果に
でも星野さんの憤慨は解消されました。年度初めにあたって、会社の顧問弁護士が星野さんとその上司への処罰に対して「やりすぎ」と指摘したのです。
「減額された金額は、そっくりそのまま戻ってきました。ただ実は、減額されていた期間に、こんな会社なら辞めてもいいや、と転職活動をしていました。でも他の広告代理店に転職しても、やることは同じだなって思ったんです」
「それより起業したほうがいい」と決心した星野さんは、夏のボーナスが出てから、退職届を提出。起業の意志を報告したそうです。
副業がきっかけで、起業することになるとは、星野さん自身も予想していなかったでしょうね。
<TEXT/夏目かをる イラスト/超ズボン>