ブランド撤退の危機も…森永乳業「MOW」復活リニューアルの舞台裏
世代問わず、不動の人気を誇るアイスクリーム。コンビニやスーパーには多種多様な商品が並べられている。とりわけ、コロナ禍で新たに需要が高まったのが「ちょっと贅沢なアイス」だ。高級感あるパッケージや濃厚な味わいなど、ちょっとリッチな気分に浸れるアイスとして注目されている。
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そんななか、大手食品メーカーの森永乳業が出す人気商品「MOW(モウ)」も、昨年9月から厳選素材にこだわった「MOW PRIME(モウ プライム) 」を発売した。今回は同社のマーケティング統括部 冷菓事業マーケティング部マネージャーの柳迫さやか氏に、MOWブランドが長年愛されてきたワケや今後の展望について話を聞いた。
乳業メーカーだから「こだわったアイス」
MOWは2003年の発売以来、森永乳業が出す「ピノ」や「PARM(パルム)」に次ぐ主力ブランドとして成長してきた。牛の鳴き声にちなんでネーミングしたというMOWは、当初から「濃厚なミルク感のあるアイスをお客さまにお届けしたい」という想いのもと、商品展開してきたという。
「当時のカップアイス市場で他社メーカーが主に出していたのは、カスタード系のバニラアイスでした。そこで森永乳業は、乳業メーカーの強みを生かすべく、乳のコクをベースに『手づくり感のある美味しいアイス』を世に出そうと考えたんです。
乳化剤や安定剤を使用せず、自社で手に入る乳原料の素材や独自の製法を開発することで、ミルクのコクだけでなくなめらかな食感やスッキリする後味が出せるように手をかけてきました。また、現在は規格も看板商品のバニラは『アイスクリーム』にこだわっていて、値ごろ以上の本格的でクオリティの高い味わいも人気を呼んでいる理由だと考えています」
一般的なアイスでは使っている乳化剤や安定剤を、あえて使用せずにミルク本来の味を引き出すことにこだわってきた結果、これまでにないバニラカップアイスとして認知されるようになった。
競合商品に埋もれて終売も考えた時期も
ロングセラー商品が多く存在するアイスクリームの中でも、MOWは発売当初から好調に伸張し、2009年までは成長を維持していた。しかし、他社メーカーの出すカップアイスも負けず劣らず、リニューアルやフレーバーの横展開によってシェア拡大を画策し、市場における競争はさらに激化。
高級カップアイスとして名高い「ハーゲンダッツ」や、大容量でインパクト大の「明治 エッセル スーパーカップ 超バニラ」、シャリシャリ食感が特徴の「ロッテ 爽」など、まさに陳列棚の熾烈な奪い合いが繰り広げられる状況となっていった。
こうしたなか、MOWは2009年以降、しばらく低迷を余儀なくされてしまう。成長できずに伸び悩んだ理由として「競合商品が多いアイスの中で、お客様の求めるニーズに応えられず、存在感が薄れていた」と柳迫氏は話す。
「時代の流れとともに、アイスに求める需要が変わってきたんです。MOW発売当初の頃ははあくまで『子供が食べる冷凍菓子』という位置付けでしたが、次第に『大人向けのアイス』の需要が増えてきた時代でした。他社の商品は、このような時流に合わせたフレーバーの展開や訴求を行なってきた一方で、MOWは時代のニーズに合わせるのに遅れを取ってしまい、いつしか他のアイスと比べて埋もれてしまっていました。利益を上げられない状況が続いていたこともあり、ブランド自体の撤退も一時は考えるほどでしたね」