中国で拘束された日本人が懲役刑に。現地の外国人からは不安の声が
現地の外国人の中で拡がる懸念
同法を巡っては、違反の基準や適用範囲が曖昧であり、欧米諸国を中心に批判が集まるなか、現地で活動する外国企業や外国人からも「いつ自分たちが逮捕・拘束されるか分からない」という懸念が拡がっている。
2020年7月13日に米国商工会議所が行った調査によると、香港に進出する米企業の76%が国家安全維持法を「非常に懸念している」と回答。
ジェトロ(日本貿易振興機構)が10月にまとめた調査結果でも、約67%の香港に進出する日本企業が香港国家安全維持法を懸念していると回答。同じく日本企業の34%あまりが香港からの縮小や撤退、統括機能の見直しを検討していると回答した。
どういう理由で逮捕・拘束されるかは今後も分からないままであろう。しかし、外交関係の悪化が意図的な拘束を誘発することは十分に考えられる。
日本の対応を注視する中国
新型コロナパンデミックは、米中関係悪化にさらなる拍車を掛け、インドやオーストラリア、英国やフランスは中国へ態度を硬化させ、今日では自由民主主義諸国による対中警戒網が生じつつある。
英国は2021年のG7サミットの議長国で、インドとオーストラリア、韓国を招待することを明らかにしているが、これに中国をけん制する意味があることは間違いない。中国の日本を含む自由民主主義諸国への警戒心はさらに強くなり、中国国内にいる邦人が政治的理由により不当に拘束される事例が増える恐れもある。
現在、日本では米国や英国、オーストラリアなど5か国が加わるファイブ・アイズ(各国の諜報機関の情報を、相互利用・共同利用するために結んだ協定)に加わるかどうかの議論が浮上しているが、中国側はこういった日本の対応を注視している。
対中包囲網を崩すべく、中国は日本や韓国に歩み寄ってくるとの見方もあるが、今後の国際関係を現実的に見極め、在中邦人の安全・保護をさらに考えていく必要があろう。
<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>