『島耕作』作者が語る働き方「寄り道に見えてもムダじゃない」<弘兼憲史×山口周>
成果を左右するのはリーダーのビジョン
弘兼:当時と違って、近年は働き方が多様化していますが、余計な雑談が減って、仕事が早く終わるリモートワークの導入に注目しています。一部では「効率が悪い」という人もいるようですが。
山口:それについて、リモートを長年導入する会社の方から聞いた話がありまして。その会社ではリモート導入後、以前から評価が高かったマネジャーのチームは生産性が上がり、評価が低かったマネジャーのチームは生産性がさらに下がる現象が起きたそうです。
弘兼:興味深いですね。差が生まれる理由はなんだったんですか?
山口:最大の要因は、リーダーと部下がビジョンを共有していたかどうかです。タクシーに例えるなら、最初に運転手に「あの駅まで」と伝えておけば、放置しても目的地に辿り着きます。ビジョンのあるリーダーはこれをやっている。一方、ビジョンのないリーダーは「あの角を曲がって、2つ目の信号を右に……」とリアルタイムに指示しているようなもので、リモートでリーダー不在の環境下では部下が何をしていいかわからない。だから、効率が下がるんです。
弘兼:「俺の背中を見ろ」のような昔ながらの上司では、難しい時代になったということですね。
紆余曲折ある人生もどこかで意味が
山口:かつては、島耕作のように大企業で働き続け、出世するのが会社員の理想でした。今後の理想像についてはどう思われますか?
弘兼:収入を上げたいのか、楽しく暮らしたいのかにもよりますね。どちらの生き方も間違いではないですが、僕の場合は、嫌な仕事をやるよりは貧しくても楽しくできる仕事をやりたかったから、漫画の道を選んだ。リスクを伴いますが、得られる成果も大きいです。
山口:私も、今後は何かに夢中になる人が強い時代だと思います。ただ、必ずしも好きなものに一直線に行く必要はなくて、人生における紆余曲折はどこかで意味が生まれることもあると思うんです。スティーブ・ジョブズは、以前、カリグラフィの授業を受けていたおかげで、Macに美しいフォントを導入し、従来のパソコンと差別化することができた。それについて、彼はスタンフォード大学の卒業スピーチで「コネクティング・ザ・ドッツ」と表現しましたが、一見無駄に見えることが将来何か役に立つこともあると思うんです。