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日本の“多様性”なんてウソ。この国が放置してきたもの<ダースレイダー×映画監督・原一男>

ビジネス

れいわ新選組メンバーの「命の選別」発言

ダースレイダー原一男対談

――れいわ新選組・元党員の大西つねき氏が、2020年7月に自身の配信動画で「命、選別しないと駄目だと思いますよ。はっきり言いますけど、なんでかと言いますとその選択が政治なんですよ」と発言したことが、厳しい批判を浴びました。これについて、どう考えますか?

ダース:大西さんの「命の選別」という言葉の箱には、彼が実感を持って、経験して、血肉化したものを感じられないと思いました。おかしいのは、“命の選別”について彼が「政治の役割だ」というようなことを発言したことです。政治の役割ってことは、制度を作れば良いと思っているということですよね。

 車椅子の少年が電車に乗ろうとしたとき、この社会の制度だから階段は登れないし、改札は通れないし、切符は買えないけど、周りの人が「このままではこの人は電車に乗れない」と、彼を担いだり、切符を買ってあげたりしたから、乗ることができた。つまり、人が制度を乗り越えているわけじゃないですか。この現象を見れば、制度だけではダメだとわかる。改札を広くすればいいのではなく、手を貸す人がいるかどうかだと思います。

 確かに法律を変えることも大事だけど、アップデートは基本的に間に合いません。法律はどんどん時代遅れになっていくからです。だから人が制度を踏み越えなくてはならないんです。

若者に足りないのは“熱に当てられる体験”

――大西氏の命の選別発言を受けて、れいわ新選組は彼に対し、障害や難病を抱える当事者(党員の木村英子氏含む)による2回のレクチャーを行いました。この対応についてどう思いますか?

:人間は「自分が見たいものしか見ない」という欠点を持っているから、いくら教育をしてもその問題に興味を持っていなければ素通りしてしまうよね。この前『ゆきゆきて、神軍』を明治大学の女の子が見て「長い」って言っていたけど、それも関心が持てなかったからでしょ。

「関心を持つ」を別の言葉でいうと「好奇心をどれだけ持っているか」。好奇心の強さは、その人の“生命力の強さ”に繋がっていると言ってもいい。でも今、好奇心を持たない人が多すぎると思います。日本人全体が劣化してるんじゃないかという感じがある。このどうしようもなさを、どうやって打破するかは本当に大きな問題じゃないかな。

ダース:おっしゃる通りで、日本人がしょぼい以上、教育なんて意味がないんです。それよりも、熱に当てられる、例えば熱弁を奮っている人の話を聞いているうちに、その人の気持ちが乗り移ってくるような、“感染”させられる体験をもっとしないといけない。

 大西さんがレクチャーを受けたことについても、彼の中に動機があるならわかるけど、組織側から一方的に教育したところでまったく意味がありませんよね。木村さんという、命の大切さに対してものすごいエネルギーをかけて向き合ってきた人と、大西さんのような人が同列に会話ができると思っている時点で浅はかだと思います。

 舩後さんや木村さんが立候補したとき、彼らが吐露した経験や決意に、僕は“感染した”と思っている。そういう経験を若い人はもっとしていくべきだと思う。

 炎が目の前でメラメラ燃えていたら、関心うんぬんの前に熱いじゃないですか。熱いと感じたら、そこに炎があり、何かが燃えていることに気づくはず。炎があることにすら気づかないのは、生物としての基本的な危機管理能力すら失っているということだと思うので、そういう人って本当に生きてるのかなって思っちゃいます。

<取材・文/鴨居理子>

1977年パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、ラップ活動に傾倒し中退。2010年6⽉に脳梗塞で倒れ合併症で左⽬を失明するも、現在は司会や執筆と様々な活動を続けている。

公開情報
れいわ一揆
2019年9月11日よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開
©風狂映画舎

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