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“事故物件住みます芸人”が語る、「怪談と都市伝説」の違い

暮らし

ネット番組で培ったファンとの「空気感」

異界探訪記

『異界探訪記 恐い旅』(二見書房)

――それは、松原さんがお客さんを育てていったようなところもあると?

松原:自分が育てたとかそんなおこがましいことは思ってないです。でも、「怖さ」よりも「面白さ」を求めてくれるようになったというか。

 ネット番組とかやってると、配信を邪魔してくる“荒らし”が多かったりするんです。思ったことを何でも書き込めてしまうのがネットなので仕方ない部分もあるんですが、出演者への悪意あるコメントだったり、極端に否定的なコメントだったり、意見の違うユーザー同士がケンカを始めたり。

 これらの書き込みは視聴者には見えてしまうので、ただ番組を楽しみたいと思ってくれている方には「邪魔になるなぁ」と思い、僕はそういうのを闘わずに排除していくよう心がけました。楽しくあることを優先しましょうと。

 そういう不快な言動は場違いですよというのを態度で示し続けたんです。そうすると、だんだん少なくなっていくんですよ。番組を楽しみたいと思ってる人が多ければ、見てる人が結託してスルーしてくれる。それも攻撃するんじゃなくて、無視してくれるんです。そういう空気感はすごいできあがってきてますね。それが、けっこう培ってきたものというか、信頼関係というか。

 事故物件のエピソードもあからさまなウソが1個でも入ると、信じてついてきてくれないんですよ。だから、誰も傷つけてはいけないし話を盛ってもいけない。もしそうなら本当だった話まで「盛ってんちゃうか?」ってなったりしますから。

松原タニシが考える、芸人と音楽家との語りの違い

松原タニシ

ファンとの信頼関係みたいなものを感じるお話ですね

――松原さん主催の怪談イベント「OKOWAタイトルマッチ」では、中山功太さんが2代目王者に輝いています。やっぱりお笑い芸人は怖い話をさせてもうまいってことですかね?

松原:うまいですね。やっぱり「笑わせるか」「死ぬか」で生きてきた人たちだから、舞台上での心臓の強さもありますし。スベることは死と同じ意味なので、お笑い芸人って。楽しませるであれ、怖がらせるであれ、舞台上で感情を揺さ振るって能力は秀でてるんだと思います。

――お笑い芸人だけでなく、ミュージシャンの語りも独特だなって思うんです。芸人さんがオチに向かって話すように、サビに向かって語っている感じがするというか。

松原:さっきの話と矛盾するようですけど、お笑い芸人だから怪談に向いてないって人もたくさんいて。舞台上で感情を揺さ振るプロだからこそ、自分が思ってないこともしゃべれたりするんですよ。すると、感情のこもっていない、よくできた話になってしまう。それは本当に怪談好きな人が聞いたら、「ウソやろ」って思っちゃうんです。

 でも、ミュージシャンの人たちは「こういう仕かけで人の感情を揺さ振る」っていうところじゃなくて、自分が持ってる情熱とか「この音だと気持ちがいい」みたいな感覚を研ぎ澄ましてきた人たちだと思うんですよ。つまり、自分が感動した“本当の話”しかしない。それが話術とか関係なく、見てるほうにも伝わるんじゃないですかね。

事故物件怪談 恐い間取り

事故物件怪談 恐い間取り

事故物件とは、前の住人が自殺・殺人・孤独死・事故などで死んでいる部屋や家のこと。そんな「事故物件」を転々としている、「事故物件住みます芸人」の松原タニシ、初の書き下ろし単行本

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