浅草で創業95年、町中華の名店。実は洋食メニューもウマい
町中華は複合型エンターテインメント
今回取材させてもらった町中華愛好家の皆さんには、ある共通点があった。それは、料理の味よりもむしろ、その店自体を愛しているということだ。通常、グルメネタの取材で肝となる「味の評価」が手薄になってしまうほど、それ以外の部分で町中華の魅力を大いに語ってくれた。
そして、その結果わかったことは、町中華とは「古くさい店構え」「よく見る常連客」「気のいい店主」「和洋中入り乱れたメニュー」その他もろもろが合わさって初めて完成する“空間”であり、さまざまな魅力が詰まった複合型エンターテインメントだということだ。
その点において、町中華初心者の方は遊園地に行くような心づもりで町中華へ足を運んでほしい。暖簾をくぐった先には、油くさいファンタジーな世界が広がっているはずである。
そしてもう一つ、愛好家たちが口を揃えて言っていたことがあるので、最後に記しておきたい。それは「町中華が今、存亡の危機に瀕している」ということだ。店主の高齢化、都市再開発と立ち退き問題、ビジネスモデルの老朽化など、あまたの荒波が今、町中華界に押し寄せている。あとほんの数年後には、あの店もこの店もなくなってしまうかもしれないのだ。
「町中華探検隊」の隊長も務めるライターの北尾トロさんは現存する町中華を記録し、少しでも多くの人に足を運んでもらうために「町中華探検隊」のブログにグルメレポをアップし続けている。興味のある方はぜひチェックしてみてほしい。
日本の食文化が生み出した「町中華」という異質な存在。これを次の世代に残すためには、やはり一人でも多くの人が通うしかない。さあ、1000円握りしめて町中華へ出かけよう!
<取材・文/キーヌ・坂本享哉(株式会社本) 撮影/丸山剛史 撮影協力/赤坂「珉珉」 浅草「中華・洋食やよい」>
― 特集・安くて旨い[町中華] ―