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独裁者は普通の人間。ナチス将校を装い大量虐殺をした20歳の少年

暮らし

過去は現在であり、ヘロルトは私たちである

ロベルト・シュヴェンケ

ロベルト・シュヴェンケ監督

――色味を抑えた映像やモダンな音楽もとても印象的でした。

シュヴェンケ監督:マーティン・スコセッシ監督が『レイジング・ブル』(1980)のテスト映像を故マイケル・パウエル監督に見せたときに、パウエル監督が「激しい暴力を見せるときは白黒にしたほうがよい」と助言したという話をどこかで聞いたことがあって、いつか暴力をテーマにした作品を作ったときは、できるだけ白黒にしたいと思っていました。

 それに、実際に事件が起きた1945年という“時代”を観客に感じてほしかったんです。あの時代にカラー映像はありませんでしたらからね。日本以外の国では白黒で公開しているんですが、日本の市場に合わせて色味を抑えたカラー映画にしたんですよ(笑)。

 そうは言っても、音楽まで1940年代のものにしてしまうと、“現在”に生きる観客と“過去”の物語の間に、距離感が生まれてしまう。私はこの作品を“過去”の話としてではなく、説得力のあるサスペンスに満ちた“現在”の物語にしたかったんです。観客には映画のなかに生きてもらって事件を本当に体験してほしい、そんな思いがありました。

――映画が終盤に差し掛かるにつれ、「もしヘロルトが現在に生きていたらどうなったんだろう?」と想像していたところへ、あのエンドロールが出てきて驚きました。

シュヴェンケ監督:繰り返しになりますが、この映画は決して“過去”のものではなく、“現在”も続く物語です。あのエンドロールを通じて、過去から現在までの時間の連続性を表現したかった。ヘロルトや彼の仲間たちも決して過去の人たちではなく、現在の“私たち”なんだということを、皆さんに感じてもらえれば嬉しいです。

<取材・文/此花さくや>

映画ライター。NYのファッション工科大学(FIT)を卒業後、シャネルや資生堂アメリカのマーケティング部勤務を経てライターに。ジェンダーやファッションから映画を読み解くのが好き。手がけた取材にジャスティン・ビーバー、ライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、デイミアン・チャゼル監督、ギレルモ・デル・トロ監督、ガス・ヴァン・サント監督など多数Twitter:@sakuya_kono、Instagram:@wakakonohana

【公開情報】
ちいさな独裁者』はヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか2月8日より公開
© 2017 – Filmgalerie 451, Alfama Films, Opus Film

■『ちいさな独裁者』あらすじ
 1945年4月。連合軍とソ連軍が迫るドイツではもはや敗色濃厚の雰囲気が漂い、兵士による奪略や脱走する兵士が相次いでいた。部隊を脱走した兵士ヴィリー・ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)は道端に捨てられた軍用ジープのなかにナチス将校の軍服を発見。寒さをしのぐためにそれを身にまとうと、そこに現れた上等兵フライターク(ミラン・ぺシェル)は彼をナチスの大尉だと勘違いし従うようになる。彼らが小さな村に辿り着くと、そこには脱走兵らしきゴロツキがたむろしており、ヘロルトは彼らをも配下に収めて、架空の“特殊部隊H”を結成。ヘロルトが行く先々で部下が増え、とうとうドイツ国防軍の軍規違反を犯した兵士を収容した施設に着く。そこでヘロルトらは、囚人の処刑を嘆願され、1日で約90人もの囚人を残虐なやり方で処刑してしまう……。

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