会社員と「フリーランス」どっちが恵まれている?<小田嶋隆×西谷格>
フリーランスとはどういう生き方なのか。そして、「働く」とは何なのか。
今や組織に属すことのない「フリーランス」という働き方をする人々の人数は約1100万人で、労働人口の6人に1人を占めています。
この連載では、フリーライターの西谷格(男性、37歳独身)が、フリーランスで働く人々に話を聞きます。
第1回はコラムニストの小田嶋隆さん(61歳)。前編、中編に続き、最終回では朝日新聞の社内報を例にフリーランスと会社員の幸せと、元東京都知事にまつわる話などを聞きました、
朝日新聞で見た「優秀な記者」たち
――私、最初は地方新聞で働いていたんですが、あまりうまくいかず、流れ着いてライターになってしまったんですよね。
小田嶋隆(以下、小田嶋):その話聞いて思い出したんだけど、実は私、同世代の朝日新聞の記者たちには、結構知り合いがいるんですよ。というのも、ライターをはじめた頃に、一番たくさん書いたのが『ASAHIパソコン』っていうかつて朝日新聞社が発行していたパソコン雑誌だったんです。
――ああ、そうだったんですね。
小田嶋:築地の編集部に出入りしていたから、ちょうど自分と同じような年齢の記者さんとたちと一緒に仕事をすることになりました。で、朝日新聞の記者たちを見て当時思ったんですが、彼らは要するに、優秀なんです。
半分は東大卒だし、しかもただの東大生じゃありません。新聞社のウルトラクイズみたいに難しい入社試験を解いて、作文や小論文を書いて、高い点数を出して入ってきている連中です。だからえらく物知りで人当たりも良くて、ちゃんと文章も書けるんです。ああ、こういう会社にはこんな優秀なやつらがゴロゴロいるんだなと、感心しました。
「なんだこの才能の無駄遣いは!」
――時代的に考えて、今よりももっと優秀な人が集まっていたでしょうね。
小田嶋:そうです。でもね、あの編集部で徹夜しているときにふと見つけたんですが、『朝日人』(※現在は『エー・ダッシュ』に名称変更)っていう名前のすごく分厚い社内報があったんです。
なぜそんなに分厚いかっていうと、当時の朝日新聞には2000人ぐらい記者がいたんですが、それに対して、新聞の朝刊本紙そのものはたったの30数ページです。で、割り算すると一人アタマ何行って話です。それほど文章を書くノルマが少ないわけです。
――1日の紙面の面積は決まってますもんね。
小田嶋:あんなに優秀な人間を毎年何十人も採用して、各支局に配置して勉強させていながら、それでいて彼らに記事を書くための十分なスペースを用意していないわけです。で、執筆能力に対して発表の場が少なすぎるから、彼らは社内報に寄稿せざるを得なかったわけです。たとえば岐阜支局のなんとかって記者が、飛騨高山のどこかに行って紀行文やエッセイみたいなものを書いている。
すごく読みごたえがあるんだけど、その味わい深い文章が朝日新聞の社内だけで読まれて消費されている。「なんだこの才能の無駄遣いは!」と思いましたよ。でも、彼らは30歳過ぎると年収1000万円で、本はタダで手に入るし、落語を見に行くのも伝票切れるし、会いたい人には取材として会いに行ける。だから、あの恵まれた職場でみすみす才能を腐らせていくのですね。