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会社員と「フリーランス」どっちが恵まれている?<小田嶋隆×西谷格>

学び

「朝日新聞に受かってたら一冊も書かなかった」

――そんな社内報があったとは、知りませんでした。

小田嶋:あれだけ才能にも環境にも収入的にも恵まれている人間が、果たしてどうなっていくかというと、結局一生、大した文章を残すことなく年寄りになります。

 単著も残さずにね。あれだけ才能のある人たちを、ああやって40年間飼い殺しにして何も書かない人間にしてくれたおかげで、おれに仕事が来るんだなって、当時はそう思いました(笑)。

――なるほど。それは一理あるかもしれませんね。

小田嶋:もしも彼らが外に出てフリーランスになったとして、ちゃんと書かないと明日から食っていけない立場に立たされたら、たぶんおれなんかよりずっと優秀だったはずです。でも、都心の新聞社に毎日通ってで充分な給料をもらってる彼らは、どうせたいした仕事はできません。とすれば、この勝負は私の勝ちです。

――会社員とフリーランスって、どっちが恵まれているんですかね。

小田嶋:フリーランスって、書かないと生活費すら稼げなくて死んじゃうから、必死ではあるわけ。それって恵まれているのかどうかはわからないけど、でもおれはこの年齢になるまでに、本を20冊ぐらい書いたじゃないですか。

 全部がいい本ではないけれど、でも、もしもおれが朝日新聞なんかに何かの拍子で受かっていたとしたら、自分の性格からすると、本なんて一冊も書かなかったはずです(笑)。あんな恵まれたところにいたらね。上司に怒られない程度に週1ぺんぐらい適当な記事を書いて、あとはときどき『朝日人』に寄稿してみたいなことになっていたことでしょう。

フリーランスは「仕事よりプライベート」に注意

フリーランス

かつての新聞社の環境にいたら働かないですよ

――サレンダー橋本さんの『働かざる者たち』(※大手新聞社の働かない人びとを描いたヒットマンガ)を思い出します。

小田嶋:『美味しんぼ』の山岡士郎もそうだよね。でも、あの環境にいたら働かないですよ。収入の面ではわからないけど、自分の仕事を残せるっていう意味では、フリーランスのほうが可能性はあります。なにしろ貧乏が財産ですから。それに若い時に書いた本が名刺代わりになれば、その先の展開が少しずつ違ってきます。

――ところで、フリーランスとして失敗したなと思うことってありますか?

小田嶋:やっぱり、一番は酒ですね。私に限らず、フリーランスは生活面で失敗する人がすごく多い。仕事そのものじゃなくて、プライベートの生活のほう。

 酒だったり、ギャンブルだったり、女性関係だったり。そういう部分で道を踏み誤ります。あとは寝起きや食事の時間も不規則になりがちで、中年過ぎに健康を害したり。

――仕事より生活のほうに気をつけろ、ってことですね。

小田嶋:私は自分の家で書いているけど、事務所をわざわざ借りている人も結構いますよね。きちんと毎日外に出勤して、仕事は家に持ち込まないみたいに、オンオフを分けないとだめだっていう人たちもいます。私が自分の家でやっているのは、嫁さんが外出してくれるからできていることだと思っています。

 仕事中、家の中に嫁さんがいたら嫌だから。それを察して、昼間は近所のボランティア活動とかに出かけてくれているんです。だから私は家で仕事できるんですが、仮に独身だったとしたら、それはそれで別の意味でひどいことになっていたと思います。まあ、総じて生活をコントロールすることのほうが難しいですよね、仕事よりプライベートのほうが。

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