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会社員と「フリーランス」どっちが恵まれている?<小田嶋隆×西谷格>

学び

締め切りを守らないのは生まれつき?

――それに比べたら、締め切り守らないとかは大丈夫?

小田嶋:本当は守ったほうがいいんですよ。あれはね、いろいろな人に話を聞くと、どうやら守る人と守らない人って、生まれつきみたいですね。

 守らない人は大物で、守る人は駆け出しの小物だっていう説もあるけど、実際にはそうでもありません。

 実は、20代のころに『翻訳の世界』っていう雑誌にときどき原稿を書いていたんだけど、その編集者がちょうど同じ笹塚に住んでいた関係で、しょっちゅう自宅まで原稿を取りに来ては叱られてました。一度、すごーく延ばしたことがあって「小田嶋さん、もうあなたが最後ですよ。ほかの人たちは全員原稿出しました」って言われたことがあって。

――どれぐらい延ばしたんですか?

小田嶋:いやもう、すごく伸ばしました。印刷所段階まで。で、編集者が家まで原稿を取りに来たときに言われたのが、「原稿もらったから言いますけど、小田嶋さんのほかにもう一人延ばしていた方がいて、昨日取ってきたんです」と。そのもう一人っていうのが、猪瀬直樹さんでした。で、その編集者はこう言ってましいた。

「猪瀬さんが『おれが最後だろう』って言うから、いや、実はもう一人いるんですってことを返したら、『誰だ名前言ってみろ』と。私が『小田嶋さんっていう人です』って言うと、猪瀬さんが『おれはそんなやつ知らないぞ。その小田嶋っていうやつに言っておけ。自分が締め切りを延ばすようになったのは、大宅ノンフィクション賞を取ってからだ。若いころは全部締め切り前に出していたんだ。おれが名前も知らないようなライターが、おれよりあとに出すとはなにごとだ、説教しておけ』と言われたので、一応お伝えしておきます」

「嫌な野郎だなと思いましたね」

フリーランス

猪瀬直樹っていう人は…

――すごい逸話ですね。

小田嶋:猪瀬直樹っていう人は、締め切りを延ばせるか延ばせないかをライターの格で考えているやつなんだなと思いましたよ。

 駆け出しは延ばしてはいけないけど、自分は大物だから延ばしてもいいっていう考えだったのかと思うと、嫌な野郎だなと思いましたね。私はまるっきり駆け出しの、最下層の下っ端の時代から延ばしていましたので。

――締め切りを守らないでいて、仕事が減ったりしなかったんですか?

小田嶋:もしかしたら、私の知らないところで減っていたのかもしれません。どっちにしてもこっちは気づかないですけど。最初は12回の予定で始めた連載が、途中でお疲れ様になったこともありますが、あるいはあれは、切られたということだったのかもしれません。でも、こっちからは確認ができない以上、それはわからないことですし、どっちみち終わった仕事のことは考えません。

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