胃カメラは東大医師とオリンパスが実用化!人体の中をのぞく挑戦の歴史【実は日本が世界初】

7月14日は「内視鏡の日」。皆さん、胃がん検診を受ける際に、胃部エックス線検査(バリウム検査)を受けていますか? それとも、胃内視鏡検査(胃カメラ)を受けていますか?
オリンパス株式会社(本社:東京都)の実施した意識調査によると、胃内視鏡検査(胃カメラ)を胃がん検診で選択する人は51.2%みたいですが、内視鏡の通称であり、内視鏡の一種でもある「胃カメラ」そのものの存在を知らない人はいないはず。
そこで今回は、私たちの健康にとって大事な胃カメラ誕生の背景と歴史を振り返ります。
胃カメラの最初の試みはドイツで

胃カメラの誕生は、だいたいどのくらいの歴史をさかのぼると思いますか?
もともと、胃を含む人体の内部を見ようという試みは1800年代から世界各地で行われてきました。例えば、1868年(明治元年)にドイツ人医師が、内視鏡を使った胃の内部の観察を成功させています。
時は下って1898年(明治31年)には、胃の内部にカメラを挿入して撮影を試みるドイツ人医師らもいました。公平に言えば、この胃カメラを世界初の胃カメラと呼ぶ人も当然います。
1929年(昭和4年)には〈Gastrophotor(ガストロフォト―ル)〉の名前で商品化された胃カメラも存在しました。しかし、先のドイツ人医師らの試みも含めて、これらの初期の試みは、良好な撮影ができないなどの不具合から、臨床での利用には至りませんでした。
ただ、胃の中を見たいという医師たちのニーズは変わらず存在し続けます。
後に、日本において、胃カメラの普及に尽力し、日本医師会赤ひげ大賞を受賞した石川県の医師も、レントゲンで胃がんの診断を行い、外科手術で胃を摘出してみると、術前の診断と違って胃がんではなかったと発覚するケースが少なくなかったと、胃カメラ誕生前の時代を振り返ります。
試作機の誕生を経て日本で実用化へ

その胃カメラの実用化が最初に進んだ国は日本でした。日本における胃カメラ開発の歴史は、小学館〈日本大百科全書(ニッポニカ)〉など各社の百科事典にも詳しいです。
その歴史は半世紀近く前、1950年(昭和25年)の試作1号機の完成にまでさかのぼるとされています。敗戦から5年というタイミングですね。
現在でこそ本院に統合されてしまいましたが、東京大学医学部附属病院にはかつて分院が存在し、その分院の医師が、オリンパス光学工業(現・オリンパス)に対して、
“患者の胃のなかを写して見るカメラをつくってほしい”(オリンパスの公式ホームページより引用)
と依頼を持ち込んだのだとか。その依頼は、試作機誕生の1年前の話になります。
しかし、胃の中に入れても問題ないくらいの小さなレンズを製作し、真っ暗な胃の内部での撮影を可能にする光源を検討し、胃の中に届かせるために必要な軟性の管の材料を探す作業は極めて難航したそうです。一部の情報では、犬などの動物を使って実験を繰り返したとされています。
さらに「カメラ」なので、最適なフィルムの検討、水漏対策など、山積みの課題と向き合う必要がありました。
依頼から1年後の1950年(昭和25年)に試作1号機を完成させ、世界で初めての胃カメラによる胃内撮影に成功しました。しかし、臨床的に使える完成度ではなかったそうです。
引き続き、医師と技術開発者はタッグを組み、安全で、患者の負担が少なく、胃の内部を短時間で鮮明に撮影できる胃カメラの開発に取り組みます。
その上で、試作1号機誕生から2年後の1952年(昭和27年)、軟性管がより細くなり、患者の負担が大幅に軽減された胃カメラが完成し、東大病院などを中心にして、臨床の現場で導入されていくのですね。
”胃癌死は防ぎ得るもの”(論文「早期胃癌はどこまで発見できるか」より引用)
という確信と共に、その胃カメラは広まりを見せ、上述の北陸(石川)でも1954年(昭和29年)、国立金沢病院で臨床応用が始まっていきました。
ファイバースコープの試作品はアメリカで

胃カメラの実用化と普及を通して「内視鏡王国」と言われていた日本の外では一方で、後のファイバースコープにつながる開発も進んでいきました。
1930年(昭和5年)の段階でドイツ人医学生から発案された、ガラス繊維を通じて画像を送る内視鏡のアイデアが、何万本ものグラスファイバーを束にして、その両端にレンズを取り付けるというファイバースコープの試作品として、アメリカ人医師のハーショヴィッツによって形にされます。
日本で胃カメラが誕生した数年後の出来事です。
そのファイバースコープには後に、日本の胃カメラのようなカメラ機能も搭載されます。そのファイバースコープは同じくアメリカで、電子内視鏡(電子スコープ)としてさらに発展していきました。
このような歴史の積み重ねの末に、現在の胃を含む内視鏡検査の原型が整っていくのですね。
何かの誕生の背景には、いろいろな人の挑戦があり、新技術や素材の誕生も相まって、1つの発明に集約していくとわかります。
どの瞬間を持って世界初と呼ぶかは見方によって異なると言えますが、胃カメラ(胃内視鏡検査)の発展の歴史には日本人も大きく関与している、そう思うだけでもちょっと誇りに感じられるのではないでしょうか。
[文・坂本正敬]
[参考]
※ 胃・大腸がん検診と内視鏡検査に関する意識調査白書2024 – オリンパス
※ 胃カメラの誕生 – OLYMPUS
※ あざみ通信1月号
※ 「胃カメラ」を発明した日本の技術を誇りたい!世界の人々の命を救う開発の歩み – CBC MAGAZINE
※ 内視鏡の起源 – オリンパス
※ 世界大百科事典 – 平凡社
※ 日本大百科事典 – 小学館
※ 特集:内科一100年のあゆみ(消化器) – 丹羽寛文