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「写ルンです」はうつるんです!使い捨てじゃないフィルムカメラ【実は日本が世界初】

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「写ルンです」はうつるんです!使い捨てじゃないフィルムカメラ【実は日本が世界初】

私たちが日常生活で当たり前のように使っている多くの技術や製品。それらの中には、実は日本で最初に開発され、世界中で普及したものが少なくありません。そんな意外と知られていない「日本が世界初」な技術や製品を紐解き、それが生まれた背景や世界に与えたインパクトなどをクローズアップします。今回は、デジタルネイティブ世代にも人気の使い捨てカメラについて紹介します。

レンズ付きフィルムは日本生まれ

このところフィルムカメラが人気で〈写ルンです〉のような使い捨て(使い切り)フィルムカメラが品薄になっているというニュースも聞きます。類似の使い捨て(使い切り)フィルムカメラは世界にも存在して、

Kodak FunSaver(コダック ファンセーバー)
Ilford XP2 Super Single Use Camera(イルフォード)
AgfaPhoto LeBox(アグファフォト)
Lomography Simple Use Camera(ロモグラフィー・シンプル・ユース・カメラ)

など、それぞれに特徴がある人気商品ですが、このレンズ付きフィルム(使い捨て・使い切りフィルムカメラ)は世界で初めて日本で生まれた経緯があります。そこで今回は、人気再燃中のレンズ付きフィルムの歴史について紹介します。

フィルムそのものにレンズを付けるという大胆な発想

写ルンです
「フジカラー写ルンです 27枚撮り」2025年4月時点の価格は2,860円(税込)

そもそも、写ルンですのような使い捨て(使い切り)フィルムカメラは、どのような構造になっていると思いますか? 

「使い捨て」と一般的にはいわれていますが、使い切った後に回収される前提で商品が設計されていて、プラスチック製軽量ボディに、単焦点レンズ(ズームとかができない)、フィルム(カラーネガフィルム)、シャッター、巻き上げ機能が収まっています。

この使い捨て(使い切り)フィルムカメラの走り、フジカラー写ルンですが発売された年は1986年(昭和61年)7月1日、まだまだカメラが高級品で、フィルムの扱いも難しかった時代に、写真撮影をもっと身近にしたいという富士フイルムの思いから誕生しました。

安いカメラをつくるのではなく、フィルムそのものにレンズを付けるという大胆な発想で誕生した商品が、写真撮影(現像)と利用者の距離を一気に縮めます。

フィルムそのものにレンズを付けるとは、ロール型のケースに収納されたフィルムを引き出した状態でプラスチック製ボディで覆い、撮影するたびに巻き上げダイヤルをカリカリと回し、フィルムケースに収納していく仕組みを意味します。

富士フイルムによると、このフィルムそのものにレンズを付けた使い捨て(使い切り)カメラの初代機に使われた部品はわずかの26点。この発明の過程で50以上の特許出願が行われました。

このような発想と仕組みで本当に写真が撮れるのか、社内会議では不安の声が出たそうですが、「写るんです!」と担当の社員が熱意をもって答えたその言葉が商品名の由来になったとグッドデザイン賞公式サイトにも書かれています。それだけ、画期的な製品だったのですね。

リサイクル・リユースシステムを支える循環生産工場

「写ルンです」外箱と本体

この写ルンですは、安く写真を撮れる手軽な商品としてヒットを果たします。翌年には、海外展開も始めました。

初代機は、フラッシュ撮影ができませんでしたが、その後で、フラッシュ付き、防水機能付きなど商品展開が行われ、発売から約10年が経過した1998年(平成10年)には、累計6億本の生産量に達したとされています。

ユニークで、ちょっと笑えるテレビコマーシャルも話題になりました。デーモン小暮(現・デーモン閣下)さん、稲垣吾郎さん、高島忠夫さん、沢口靖子さんなど、有名人を次々と起用し、写真撮影に楽しさと気軽さのイメージを持ち込み、人々の暮らしを変えていきます。

また「撮影後はこのまま現像にお出しください」というメッセージ付きで発売当初から販売される写ルンですは、現像プリントのためにユーザーによって写真店に持ち込まれた後、回収、仕分け、クリーニング、修理を経て再利用されます。

生産量が累計6億本に達した1998年(平成10年)には、このリサイクル・リユースシステムを支える循環生産工場が世界初で稼働しています。

大量生産、大量消費によるごみ処理飽和問題が深刻化している時代に、商品設計の段階から、リサイクル・リユースシステムを前提とした商品づくりが行われていました。

革新技術とアイデアを次々と投入し、いくつもの世界初を実現したこの発明品は2014年(平成26年)、国立科学博物館によって重要科学技術史資料(未来技術遺産)に登録されました。

さすがにこのころは、デジタルカメラの普及、カメラ付き携帯電話の普及で、写ルンですの出荷本数は落ち込んでいましたが、レトロブームと共に近年は人気が再燃、実際に写真を撮って現像に出すという手間と写真の質感に「新鮮さ」を感じる若者の間でヒットし、SNSで「#写ルンです」というハッシュタグが使われるくらい盛り上がりを見せています。

ちなみに、筆者(中年)の知人の若者は「写ルンです」の人気が再燃したころ「写ルンです」を「シャルンです」と言っていました。「写メール」との関連で生まれた誤読だと思います。正確には「ウツルンです」です。念のため。

【参考】
写ルンです(富士フイルム株式会社) – 特許庁
「写ルンです」は、なぜ写る? – グッドデザイン賞
富士フイルムの歴史 – 富士フイルム
※ フジカラー 写ルンです、カメラ付き携帯電話など 49 件の「重要科学技術史資料(愛称:未来技術遺産)」の登録と登録証授与式について – 国立科学博物館
※ 知恵蔵 – 朝日出版社
※ レンズ付きフィルム「写ルンです」の循環生産システム – 鎌田光郎、内田祥一
※ 若者のレトロ商品における利用動機に関する研究─使い捨てフィルムカメラを対象としたノスタルジアと新奇性からの検討─

〈bizSPA!〉元編集長。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉創刊編集長。国内外の媒体に日本語と英語で寄稿し、翻訳家としては訳書もある。技能五輪国際大会における日本代表選手の通訳を直近で務める。東証プライム上場企業の社内報や教育機関の広報誌でも編集長を兼務しており、広報誌の全国大会では受賞経験もあり。

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