「年収は住むところで決まる」理論って本当? 所得格差の“なぜ”
日本において高収入層が多い場所は、東京のごく一部に偏っています。ですので、彼ら相手の商売も考えられます。例えば、代々木上原で手作りプリンを提供したり、広尾でトリミングサロンを開いたり、恵比寿でハンドメイドアクセサリーを並べたり……。
こうした場所で成功するためには、まず店舗を用意し良質な口コミを得て、さらにみんなが納得するバックストーリーが必要ですから誰でも再現は可能でありませんが、ローテクなスキルでも、立地とチャンス次第で十分な成功が可能であることを意味します。
青森市のキャバクラ時給が東京港区のマクドナルドの時給とほぼ一緒という事実は、地方だとアッパーが厳しい現実と、野心的な人を上京に向かわせるのに十分な説得力を持ちます。
都内のエリア別所得格差はなぜ生まれる?
さて話を東京23区に戻し、なぜ23区内の住むところによる年収要因は少ないのに、結果としてエリアでこれだけ所得格差が出るのでしょうか? 住む場所によってさほど年収が変わることがないなら、なぜ高年収層は「地価が安くて利便性が良い、つまりコスパが高い」住所に引っ越さないのか、と思う人がいるかもしれません。
結局、東京のように長い歴史を持つと、エリアによって地歴や経済・文化的集積に差が出てきます。この差が年月が経つに連れて、土地の価格差を正当化し、より人気地区の地価を上げることになります。
ただし、最近は共働き世帯割合の増加から、時間に余裕がない人たちが多くなり、結果的に地歴よりも利便性至上主義ともいえる駅前信仰が出現しています。住宅地として高い人気があり、高年収層が目立つ世田谷区でも、駅から徒歩20分以上のマンションはなかなか売れなくなり、足立区北千住エリアの駅前に立つマンションは、世田谷区と同じ値段でも売れるようになってきています。
人の行動様式の変化の積み重ねが、新しい東京の地価を作っていきます。新しく建った駅前マンションに住む住民は、今までの住民と違い、高年収層で教育費に糸目をつけず、時短にお金を払う行動スタイルを取ると、新しいサービスも生まれてきます。「交通利便性が良い路線の駅前にタワーマンションが数多く建つと、夫婦フルタイムの共働き世帯が増え、そのエリアがより豊かになる」。これは、勝どきや武蔵小杉に見られる現象です。
数年後の日本の価値観は、エンリコ・モレッティ氏が考えたのと、若干違う様相を見せているかもしれません。
<TEXT/のらえもん>