話題の新人監督を直撃! 1997年の中国を舞台にした傑作サスペンス
2017年度の第30回東京国際映画祭で芸術貢献賞と最優秀男優賞を始め、第12回アジア・フィルムアワード新人監督賞や第55回金馬奨国際批評家連盟賞など、2017~2018年にかけて数々の映画祭で受賞した中国の話題作『迫り来る嵐』が2019年1月5日に公開されます。
本作が初監督作品とは思えないほどの緻密なキャラクター設定、サスペンス性と芸術性で、その才能を見せつけた中国人監督、ドン・ユエ。来日した彼に映画製作や現代の中国についてお話を伺いました。
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【『迫り来る嵐』あらすじ】
1997年、香港返還の年。中国湖南省にある古い国営製鋼所で保安部の警備員をしているユィ・グオウェイ(ドアン・イーホン)は、近所で起きた連続殺人事件に興味をもち、刑事気取りで勝手に捜査を始める。警察から止められても、殺人事件が起こるたびに彼の執着はどんどんひどくなり、捜査で知り合った美しい女性イェンズ(ジャン・イーイェン)と恋に落ちるが、彼女との未来より殺人事件を追うユィの行動はますます過激になり、事態は思わぬ方向に進んでいく……。
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中国の工場における地域格差はどこから?
――映画の舞台となった1997年の湖南省では工場が廃れ、経済成長が崩壊しているように見えます。一方、湖南省の南東部に接する広東州では、今でも外資系企業の工場が拡大しており、都市の高級化が進んでいます。中国国内の格差はどこから来るのでしょうか?
ドン・ユエ(以下、ユエ監督):まず、湖南省と広東省では産業が違います。湖南省では重工業の工場が多く、いわゆる鉄鋼業など、原材料を製造する工場が多いんですね。深セン市を中心とした広東省には製造業の工場が多い。
重工業の工場は国有企業が経営しており、生産性が低下しているのですが、国からの補助がありなんとか維持している状態です。一方で、広東省は製造業なので市場と密接に繋がっていて、フレキシブルな経営ができるのでどんどん繁栄しています。つまり、中国において重工業は廃れていますが、製造業やハイテク産業は成長しているのです。
――本作は実際に起きた連続殺人事件を題材にしながらも、物語の本質は映画の冒頭で主人公のユィが自分の名前について語るシーンに秘められているのではないかと思いました。
ユエ監督:そのとおりです。ユィが自分の名前を「余分の余」と説明するシーンがありますよね。あのシーンでは、ユィが「自分はもう現代社会では要らない存在になったんだ」と感じていることを表現したかったのです。
作中の“工場”が象徴するものとは?
――映画の全編にわたり、黒、青、雨以外の色がほとんどないのですね。工場でユィと犯人が繰り広げるチェイスシーンは、あの“工場”がまるで生きているように見えました。
ユエ監督:いままでいろいろな国で取材を受けましたが、工場に対して言及してくれたのは、あなたが3人目です(笑)!
脚本を書く段階で、私は工場を一種の“怪物”というイメージで描こうと考えていました。あの工場は、工員たちのそれぞれの個性や自我といったものを飲み込んで画一化していく存在。
だから、工場で仕事を終えて出てきた工員たちの顔を見ると、生命感がない――。でもこれは、あの時代のリアルな風景だったのです。