『13歳のハローワーク』の呪縛は今日も会社員を苦しめる――人気コラムニストの「仕事論」
気が付いたらここにいたんですよね
――昔の価値観だと、そういうものですよね。
小田嶋:でも、特にフリーランスでやっている人たちのなかには、「この仕事でないと生きがいは得られない」という思いの人も一定数いるのかもしれない。
「この仕事をすれば自分は生きがいが得られて、それに残れないのだとしたら自分の人生は失敗だ」みたいに思っているのだとしたら、それはそうでもないぞ、と言えると思う。
――仕事に生きがいを見出せればラッキーだけど、そうでなくてもオーケーということですね。
小田嶋:ライターになりたくて頑張ってなったんだ、っていう人は仕事に対してなおさら生きがいを求めるかもしれないけど、私はそういう経緯で今の仕事に就いたわけではないんですよ。
気が付いたらここにいたんですよね。結果的に、適性のあるところで稼ぐようになったとも言えるけど、やれそうなことをやっているうちに、一番ものになりそうな場所に残っただけなんです。
大学のころにライターなんてまるっきり考えていませんでした。文学部に行ったわけでもないし、バンド時代に知り合った仲間の一人から「雑誌出すから、ちょっと手伝ってくれ」と言われて、いいよいいよってやることになったのがきっかけですからね。
「お前も村上龍になりたいだろ」って本
――学生時代から文章を書くのは好きだったんですか?
小田嶋:文章を書くのは好きでしたけど、好きなことを仕事にしようとは思っていませんでした。
――「仕事にやりがいを求めなくてもいい」という言葉には、救われる人も多いかもしれないですね。
小田嶋:好き嫌いと適性をベースに仕事を探すのはアリなんですが、生きがいまで見出せというと、キツイですよね。『13歳のハローワーク』という本には、誰にでも適職があって、職業で自己表現をするんだっていう考え方が強調されています。
でも、職業で自己表現ができてる人間って、それこそ村上龍ぐらいなもんですよ。あの本って、「お前も村上龍になりたいだろ」って、そういう本なんです。
――それはあるかもしれないですね(笑)。
小田嶋:普通の会社の総務で働いている人が自己表現できているかっていうと、そうはならないと思う。
毎日通っている職場に好きな子がいるとか、上司にちょっと誉められたからうれしいとか、そういうことの積み重ねでなんとかやっていけてるわけで、最初から仕事が自分の生きがいだなんていう人間は、100人のうちの2~3人しかいないんじゃないかって思います。