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『13歳のハローワーク』の呪縛は今日も会社員を苦しめる――人気コラムニストの「仕事論」

学び

「夢=職業」となったのはわりと最近

――私が大学生の頃に出た本(2003年初版)なので、当時13歳だった人たちはちょうど今アラサーぐらいですね。

小田嶋:「自分探し」が職業選択と大きく結び付けられている風潮って今もありますよね。職業こそが人間の自己実現の本筋で、どんな職業に就き、どんな仕事をするのかが、人生の一番大切な分岐点だという。でも、「夢=職業」となったのは、わりと最近の話です。私はこのことを強く訴えたいと思っている。

――小学校の卒業アルバムなんかでも「将来の夢」として職業を書かせますけど、昔はそうでもなかったんですか?

小田嶋:少なくとも私が就活をしていた当時は、そんなことを言っているやつはあまりいなかったですね。何かになるのが夢だと言っているのは、ロックンローラーとか野球選手とかで、要するにスターになりたいっていう。

 あれは職業ではなくスターになりたかったわけで。あらゆる人間がいろんな職業に就いて、それぞれに全部夢があるんだよみたいな、職業イコール自己実現の枠組みで、人生が語られるようになったのは、だいたい90年代以降のことだと思います。

――昔の若者は「将来の夢」なんて必ずしも考えてなかったわけですね。

小田嶋:そんな、仕事なんかにいちいち夢があってたまるものですか! だから個人的には「いろんな職業に意味があって、それぞれの人に適性のある仕事があり、生きがいを感じられる良い仕事が一人にひとつずつ用意されているんですよ」みたいなウソがまかり通っていることに、憤りを感じます。

自分の適職なんて「あるはずない」

フリーランス

小田嶋隆さん(左)と西谷格

――就活の場面でも、まず最初に「適職診断」みたいなことから始まりますよね。

小田嶋:今の若い人たちを見ていると、「自分にとって正しい職業は何だろう?」みたいな自分探しを強いられているのが、すごく気の毒です。我々の世代は、そこでは悩まなかったです。もっと別のところで悩んだり苦しんだりはしたけど、自分の適職が何かなんて、「そんなものあるはずない」ってはじめからそう思ってましたから。

――「適職」っていう言葉自体、疑ったほうがいいのかもしれませんね。

小田嶋:「仕事っていうのはイヤだからカネがもらえるんだよ」って、うちの親なんかは完全にそう言っていましたよ。お金もらえるんだから、我慢するんだよと。

 仕事っていうのは我慢なんだよと。「素晴らしい仕事があるからそこへ行きたい」とは考えずに、なんとか我慢できそうな職場はないものだろうか、少しでも条件の良い道はないかとか、そういうふうに考えていましたよね。やりがいとか生きがいでは、仕事は見なかったです。

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