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【保護犬のリアル】「うちの犬タダで引き取って」「引き取ってもらった後また犬に会いに来てもいい?」都合の良すぎる飼い主たち

暮らし

近年特に注目を集める保護犬にまつわるリアルを聞いた

多くの人たちの間で「保護犬」が注目を集めている。

保護犬とは、元飼い主から意図的に捨てられたり、ブリーダーなどの繁殖場が破綻し放り出されたり、多頭飼育崩壊現場で保護されたり、犬自体が迷子になったり、野犬だったりして行き場を失った犬のことを指す。

こういった保護犬を積極的に迎え入れ適切なケアやサポートをし、新しい里親希望者へと譲渡する活動を行うのが、いわゆる「保護犬団体」だ。

一口に「保護犬団体」と言っても団体ごとに規模やサポート内容、そして考え方は微妙に異なるものの、共通するのは「与えられた命を救いたい」という思いである。そして、各団体の考えや保護犬への思いから、多くの支援者が寄付金や物資を支援するのもおおむね共通する点であり、言わば多くの人の良心と動物への愛のもとで成り立っている世界だ。

しかし、その保護団体当事者の中には、こういった思いとは裏腹に様々な場面で悲しい思いをすることも多々あるようだ。

東京・足立で犬猫の保護活動を行うPETS代表の田口有希子さんも、保護犬の受け入れや譲渡の場面で困惑することがたびたびあるという。ここでは、田口さんから聞いた、保護犬にまつわる現実を紹介したい。

保護犬の存在を知り「役に立ちたい」と団体立ち上げ

田口さんは30代とまだ若く、保護活動を始めたのは2018年のこと。活動を始める以前は単に「犬が好きだった」というだけで、「保護犬」という存在を全く知らなかったという。

「ほんの数年前までは『保護犬』というものを全然知りませんでした。『保護犬』を知ることになったきっかけはいくつもあるのですが、一番は身内から『飼っていた犬を飼えなくなる』という事態が起きたことでした。『こうやって行き場を失う犬は、他にもきっといっぱいいるんだろうな』と思い、いろいろ調べていく中で、保健所や愛護センターにはものすごい数の犬たちが収容されている現実を知りました。

また、『こういった保護犬たちのサポートをしたい』と思い、とある団体にボランティアに行くことにしたのですが、そこはたまたまテレビで紹介された後で、多くのボランティア希望者さんが集まりすぎていました。みんなやることがなさすぎて、小さなスペースをただひたすら1時間くらいずっと掃除する……みたいな状態でした(笑)。

こういった経験の中で、『私なら、1時間ずっと小さなスペースを掃除するよりも、もう少し役に立てることがあるかもしれないな』と思い立ち上げたのがPETSという団体です」(田口さん)

団体を立ち上げることにした田口さんは、まずSNSなどで他の保護団体の情報をチェックし、「引き取ってあげてほしい」といったところに問い合わせをしたという。結果、特に地方で行き場を失った犬を積極的に引き取ることから始めたそうだ。

「保健所管轄の愛護センターからの引き取る例もあるのですが、実は東京近郊の愛護センターには行き場を失った犬ってそんなにいないんです。そのためにSNSなどで知った地方の保護団体さんにいる犬を中心に引き取り、お世話をし、新しい里親希望者さんに譲渡する活動をするようになりました」(田口さん)

心ある団体であればこそ、保護犬の譲渡先も慎重になる

保護犬を扱う団体の中には悪質なところもある?

当初は手探りでスタートした田口さんの保護活動。各地方の保護団体との交流を重ねていき多くの命を救うことができるようになったわけだが、実は保護活動を行う場合、この「最初」がとても肝心だとも田口さんは言う。

なぜなら保護犬を取り巻く世界では必ずしも良い団体だけでなく、ときに保護犬を今一度辛い目に遭わすところもあり、心ある良心的な団体であればこそ初見の引き取り手には慎重になるケースが多いからだ。

「自身の施設のキャパをオーバーするほどの頭数を受け入れるだけ受け入れてしまい、結果的に死なせたり逃したりするところがあったり、あるいは駅前での募金活動で気を引くために、ブランド犬種ばかりを引き取り必要以上の収入を得ようとするところがあったりします。あるいは虐待まがいの団体もあるようです。

だから、前述のように私が地方の保護団体に引き取りの申し込みをした際も、かなり詳細な質問を受けました。

『引き取った後どんなところで生活させるんですか?』『写真とか見せてもらえますか?』など。

でも、そのときに初めて『いや、でもそうだよな。大切な命を預けるわけだから、そんないい加減に誰にでも渡すはずはない』とも思いました」(田口さん)

「タダなら犬を捨てたい」「引き取ってもらった後、また犬に会いにきたい」

手探りで始めた田口さんの保護活動は、後に複数のメディアにも取り上げられるようになった。今年春、とあるWEBメディアに掲載された「田口さんと保護犬の話」は数千万人が閲覧し、ネット上には、SNSも含めて感動の声が何千と並んだ。

その影響で心ある方々から多くの支援やメッセージが届き人の温かさを感じたと田口さんは言うが、その一方、数は少ないものの「悲しい思い」も味わったともいう。

「WEBメディアの記事の影響で、多くの方からのご支援やメッセージは本当にありがたく、勇気づけられるものが大半でした。

しかし、一方で増えたのが、『うちの犬をタダで捨てられる場所、見つけた!』と言わんばかりの引き取り依頼です。1日に3件くらいの問い合わせがありました。

なんらかの事情で飼育放棄をし保護団体などが引き取る場合、元飼い主の方は、必ず初期医療を負担してもらうのですが、その負担の話を聞くと、大半は『ちょっと考えます』と言いそのまま連絡が途絶えます。

言い換えれば、『タダなら捨てたい』『タダじゃないなら我慢して飼うか』みたいに都合良く考える飼い主が多いとも考えられて、悲しい気持ちになりました。

また、この時期の引き取り依頼で1頭だけ引き取った犬もいるのですが、このときは朝いきなり電話がありました。『もう近くまで引き取ってもらう犬を連れて来ています』と言います。

驚きましたが、事情を聞いた後で結果的に引き取ることにしました。しかし、一番驚いたのは『引き取ってもらった後、うちの子どもたちが寂しがるので、たまに遊びに来てもいいですか?』と言われたこと。ガックリしました。

うちで引き取ることにした犬は、施設の玄関のほうをずっと見つめて『(元飼い主が)いつ私を迎えに来てくれるんだろう』といった表情を浮かべていました。『もう迎えに来ないんだよ』と声をかけるのも違うし、その子にどう伝えれば良いか困惑しました。

WEBメディアの記事がいっぱい読まれたことで改めて思ったのは『私は現実を知らなすぎたのかもしれない』ということでした。

それまで、『引き取って欲しい』と、うちにやってくる人たちは、それなりに切実な人が多かったのですが、『タダなら捨てたい』『引き取ってもらった後また会いに来たい』と都合良く考える人があまりに多く愕然としました。同時に、実はこうやって軽く犬のことを考える人のほうが多いのかもしれないとも思ったんです」(田口さん)

詳細に定めた条件のもとで譲渡するかどうかを決める

複数の保護犬たちが楽しそうに暮らしているのがPETSの特徴

しかし、PETSにいる保護犬たちは、悲しい過去を持っているはずなのに、いずれもみんなニコニコしながらはしゃぎ回っており言われなければ「個々には悲しい過去がある」ことを想像できないほどだ。

筆者は、複数の保護団体を取材したことがあるが、この点はPETS特有のものだ。田口さんを始めスタッフの思いが、保護犬たちの側に伝わり、そして「元いた環境よりも何倍もここが楽しい!」と感じるからではないかと思う。

「自分では『明るく接している』という自覚はないですが、ただ、過去を振り返って悲しんでばかりもいられませんから。

ただ、だからこそ、うちにいる子の譲渡を希望をされる方にも、念入りに条件をお伝えし、絶対に幸せに導いてくれる方に限って譲渡させていただくようにしています。

言うまでもなく『この子の里親を希望されるんですね。はいどうぞ』というわけにはいきません。もし、うちにいる目当ての犬の里親を希望される方は、ご自身の状況、将来などと合わせて『その犬を本当に幸せにしてあげられるか』を考え、お問い合わせいただければと思います」(田口さん)

「うちだけじゃない」と都合良く変換する飼い主が増えた?

近年、「保護犬」という存在がメディアなどで注目を浴びるようになったが、このことも場合によっては「犬を捨てる」ことを助長する場合があるのではないかと田口さんは指摘する。

「『保護犬』という存在はここ数年でメディアで大きく取り上げられ『それまでかわいそうな思いをしていた犬が、保護された後、幸せになった』というストーリーもメディアで多く紹介されるようになりました。

こういう情報を前に、大半は命の重みを感じる人ばかりだといますが、中には頭の中で都合の良い変換をし『うちにいるよりも、この子はもっと幸せになる』と、飼育放棄を選ぶ人が増えているようにも感じています。

なんとなく、『世の中にはこんなにいっぱい捨てられる犬がいるんでしょう。うちもやむを得ない事情があるし、だったらしょうがないと思う』みたいな感じで、『うちだけじゃない』と都合良く考える人が増えているようにも感じています」(田口さん)

「保護犬」が知られるようになったことで良い面もあれば弊害もあるということだが、その上で田口さんは最後にこうも話してくれた。

「そもそもの話として、『犬を飼う』ということは、最期まで飼うことが大前提で当たり前のこと。

うちの実家でも犬を飼っていましたが、『この犬と離れ離れになる』『この犬を捨てる』なんて想定したことがありませんでした。実際、この活動を始めることを父に言っても『ん? 保護犬って何?』『え? 途中で犬を飼えなくなる人がいるのか』みたいに驚いていましたから。

私にとってはそれが当たり前の考えです。今、犬を飼っている方にはとにかく『最期まで飼って面倒を見て欲しい』です。当の犬だってそれが当たり前だと思っているはずですから」(田口さん)

<取材・文/松田義人>

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保護犬カフェ・PETS
https://profile.ameba.jp/ameba/pets-adachi203

音楽事務所、出版社勤務などを経て2001年よりフリーランス。2003年に編集プロダクション・decoを設立。出版物(雑誌・書籍)、WEBメディアなど多くの媒体の編集・執筆にたずさわる。エンタメ、音楽、カルチャー、 乗り物、飲食、料理、企業・商品の変遷、台湾などに詳しい。台湾に関する著書に『パワースポット・オブ・台湾』(玄光社)、 『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)、『台湾迷路案内』(オークラ出版)などがある

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