「部下がうつ病かも…」精神科医が教える上司がやってはいけないこと・やるべき対処法
近年、多くの企業では社員のメンタルヘルスケアへの取り組みが進んでいる。産業医へ相談できる仕組みはもちろん、上司対部下の1対1の面談なども当たり前のように行われるようになった。一方で、まだまだ環境や体制が整っていない職場も少なくない。上司の立場として、部下にうつ兆候が見られた際に、どうすれば良いか迷っている人もいるかもしれない。そこで今回は、市川メンタルクリニック院長として精神障害、睡眠障害などの治療にあたる精神科医・芦澤裕子氏に、うつ病かもしれない部下への対処法を5つ聞いた。
>>役職が上がるにつれて、いつの間にか「ああはなりたくなかった人」に近づいてしまう。
部下がうつ病にかかっているかも?と思ったときは1対1の対話を
もし上司の立場として、部下がうつ病になりかけているのでは?と感じたら、まずどうすればいいだろうか。
「まずは相手を思いやって声をかけることです。できれば、他の人には聞かれない個室で、部下と二人きりでお話しください。周りの目があると遠慮したり、聞かれたくなくて『大丈夫です』などと言われてしまうかもしれないからです。
部下に対しては、『最近調子が悪いように見えるけど大丈夫?』『心配しているんだよね』など思いやりの言葉をかけてください。
部下が話し出したら、傾聴しましょう。途中でさえぎって自分の意見を言ったり、価値観を押し付けたりしてはいけません。相槌を打ったり、『それは辛かったね』と共感したり、部下が『新しい仕事がむずかしくて、自分はやれないと悩んで』などと言ったら『新しい仕事がむずかしくて悩んでいたんだね』とオウム返しで良いので返答を。親身に言えば、部下は『この人はわかってくれている』と思うので、話しやすい雰囲気や安心感を与えることができます。そして話がふくらみ、部下の状態やストレスを把握しやすくもなります」
うつ病かもしれない部下にやってはいけない対応
うつ病かどうかはわからないけれど、なんとなく継続してメンタルが落ちているように見える部下に対しては、どんな対応がNGとなるだろうか。
「『ストレスに強くなれ』や『気の持ちようだから頑張れ』など非難とも受け止められる叱咤激励や、上司自身の価値観の押しつけはやめましょう。また、部下と相談せずに、勝手に仕事の調整をしてはいけません。しっかりコミュニケーションを取り、信頼関係を保ちながら調整をしてください。
また、部下の状態や、部下の話に出てきた内容を、部下に断りなく他者に話すのもよくありません。部下との信頼関係が崩壊します」
受診や産業医面談、職場環境の調整を
部下との対話の結果に応じて、適切な対応したい。どんな方法があるだろうか。
「気分が落ち込む、意欲が出ない、不安だ、夜眠れない、体がだるいなど抑うつ症状で日常生活や社会生活に支障が出ているようであれば、医療機関への受診を勧めたほうがいいと思います。
そこまで症状が重くなければ、ストレス要因を軽減するよう職場環境の調整をしてください。同時に会社の産業医の面談も良いかもしれません。有給休暇取得を勧めるのも良いですね」
ポイントは、部下を思いやる気持ちと信頼関係を崩さないことにありそうだ。ぜひ意識して、部下が仕事への意欲を取り戻せるよう、尽力したいものだ。
<取材・文/一ノ瀬聡子>
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【取材協力】
日本睡眠学会認定医、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、指導医。心療内科、精神科のクリニックにて精神障害、睡眠障害などの治療にあたる。「心やすらぐ、ぐっすり眠れる夢の絶景カレンダー」「GOOD SLEEP BOOK 365日ぐっすり快適な 眠りのむかえ方」(翔泳社)監修。
市川メンタルクリニック
https://www.ichikawa-mental.jp/