「100年後にラーメンの歴史を残したい」“引退表明”したラーメン博物館の館長が描く夢
莫大な総工費で昭和の街並みを再現
ラーメン店の出店エリアは、地下1階と2階。ここは、「昭和テーマパーク」でもある。整然とした1階の史料館の階段を下ると、突然、雑然とした「飲み屋街」が現れる。薄暗く狭い路地。柔らかい光を放つのは、飲み屋の電飾看板だ。バーやクラブ、酒店……。連れ込み宿だろうか。「ご休憩 800円」なんていうのまである。とてもフェイクとは思えない。怖いくらいの再現性だ。
「フェイクなんだけどね。そのフェイクを感じさせちゃうと興醒めするから」
NHKの受信章はブリキでプレスする。電話ボックスはゼロから作る。空をリアルにするため、地下を数メートル深く掘る。総工費は莫大なものとなった。岩岡氏は、「やりすぎた」と笑いながら言う。
“優しい”時代を再現したかった
ここまでして再現したかったのは、岩岡氏が生まれた昭和30年代。日本が物質的に貧しく、助け合っていた時代だ。
「そのころって、高度経済成長に向かっていくときで、みんなが協力し合ってた雰囲気があるんですよ。隣同士で助け合って。たとえば、醤油がなかったから隣に行ってもらってこい、みたいな世界」
この時代を再現することで、皆が優しくなれるのではないか、と考えたと言う。
「ラーメン博物館が完成したあとね。感動したのは、茶髪の中学生ぐらいの女の子が、おばあちゃんの手を引いて、『おばあちゃんたちの時代でしょ』って。その時代を知らない中学生の女の子がね。優しくなれる。この街並みのなかには、そういう僕の思いが入っています」