ミニシアター文化は終焉を迎えるのか?岩波ホールは7月に閉館
活動に欠かせなかったパトロンの存在
総支配人の高野氏の運動を支えた人がいました。川喜多かしこ氏です。川喜多氏といえば、実業家・川喜多長政氏の夫人であり、日本映画の母と呼ばれて東和映画(現在の東宝東和)の成長を支えた映画界の重鎮です。川喜多氏は『民族の祭典』や『禁じられた遊び』など、現在でも名画と称えられる数々の映画を日本に輸入しました。
岩波ホールは1997年制作の香港・日本の合作映画『宗家の三姉妹』を上映してロングランの大ヒットを飛ばしますが、この映画の配給は東宝東和です。
また、ジャン・ルノワール監督の『ゲームの規則』『大いなる幻影』、エルマンノ・オルミ監督『木靴の樹』も上映していますが、配給元はフランス映画社。フランス映画社は川喜多かしこ氏の長女・川喜多和子氏が副社長を務めた会社です。
岩波ホールは高野氏の映画産業に対する強いメッセージが中心にあり、その活動を川喜多氏がパトロンのように支えていました。文化の発信者とその理解者。その構造が良質な作品を上映し続ける原動力になっていました。
しかし、川喜多かしこ氏は1993年7月、高野悦子氏は2013年2月に逝去。フランス映画社は2014年11月に倒産します。このときすでに岩波ホールは求心力を失っていたとも言えます。そして、終焉の合図を告げるかのように新型コロナウイルスがやってきました。
コロナ前から減収にあえいでいた
日本映画製作者連盟によると、2020年の映画館への入場者数は前年比45.6%減の1億600万人と激減。2021年は1億1400万人となりましたが、2020年比で7.5%しか増加していません。ミニシアターの状況はシネコンよりも厳しいものと予想できます。
映画監督やプロデューサーなどを中心としたミニシアター救済プロジェクト「SAVE the CINEMA」は日本政府に対して要望書を送っています。その中でコロナによって映画館の集客は30~50%以上減少、80%もの減少に見舞われたとしています。小規模の映画館は危機的な状況に見舞われました。「岩波ホール」に連鎖して閉館を決意する映画館が出てもおかしくはありません。
もともとミニシアターは経営が安定していたわけではありません。帝国データバンクの調査によると、2019年度の売上高が減収となった収入高10億円未満の映画館は43.8%。一方、50億円以上の大手・中堅シネコン運営事業者に減収はありませんでした。ミニシアターなどの規模の小さい映画館はコロナ前から減収にあえいでいたわけです。