事業価値を失った「西武・そごう」売却。セブン&アイの決断は必然だったか
事業価値を失った西武百貨店
そごうと西武百貨店の売却額は2000億円程度と見られています。セブン&アイの有価証券報告書に記載されている百貨店の土地・建物の簿価の合計は1400億円ほど。買収側に興味があるのは不動産であり、事業価値はほとんどないに等しいものと考えられます。
西武百貨店といえば、1970年代に隆盛を誇ったセゾングループの中心的人物・堤清二の文化戦略の中核にあった施設です。実業家のみならず、詩人・小説家としてとしても知られる堤氏は、文豪・三島由紀夫とも親交の深い文化人でした。
百貨店を文化の発信拠点と位置づけ、あらゆるレコードを集めたWAVE、人文系に強みのある大型書店リブロ、画集や洋書を揃えたアール・ヴィヴァン、セゾン美術館など、従来のテナント型百貨店とは一線を画すビジネスモデルで若者を熱狂させました。
1980年に売上高で三越を抜き、国内トップに躍り出ます。このころ、糸井重里氏の「おいしい生活」という有名なキャッチコピーが生まれ、2011年9月に発刊された宣伝会議の「日本のコピー ベスト100」の1位に選出されています。文化と消費が溶けあう西武百貨店に相応しい名コピーです。
近年は続々と閉鎖…
1990年に入ってバブルが崩壊すると、消費意欲の減退と不動産への巨額投資がたたってセゾングループは多額の負債を抱えることになります。2006年6月にセブン&アイが西武百貨店とそごうを買収しました。
買収後の小売業界は急速にEC化が進み、百貨店は日に日に集客力を失いました。やがてセブン&アイは戦略撤退を繰り返します。2010年12月に西武有楽町店、2012年1月にそごう八王子店、2016年2月に西武春日部店、9月にそごう柏店、西武旭川店、2018年西武船橋店、西武小田原店、2021年そごう川口店をそれぞれ閉鎖しました。
高級商品を販売する百貨店は時代にあわず、近年では立地特性を活かしてオフィスを併設するなど、不動産事業としての性格を強めています。小売の神様と言われたセブン&アイの創業者・鈴木敏文氏ですら立て直しがかなわなかった西武百貨店。今回の売却は百貨店ビジネスが今後大きく変革することを如実に物語っています。
<取材・文/フジモトヨシミチ 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>