性的虐待された10代少女が、ベランダから「助けて」…24時間チャット相談に集まる逃げ場のない声
「最優先事項」はケースによって変わる
こうした場合に私たちは、速やかに児童相談所に通告する必要がある。しかし、チャット相談の場合はいきなり「虐待を受けているんですね。では、いまから児童相談所(子どもを守る人たちと言い換える場合もある)に通告します」などと言ってしまうと、多くの相談者は「それは怖いです」「だったら大丈夫です」などと拒絶してしまう。
チャット相談の利点でもあるが、相談者は自らの意思で簡単に相談を始めたりやめたりすることができる。そのため、拒絶されてしまうとチャットから退出してしまい、その場で相談が終了してしまうことがあるのだ。そうなると、本来であれば救える命も救えなくなってしまう。
今回のケースも、すぐに「児童相談所に通告します」と伝えるのではなく、まずは相談者との間で信頼関係を構築することを最優先とした。信頼関係の構築を優先する理由は、この場合はほかにもある。それは、Aさんがベランダという自殺を図ることが可能な空間に閉じ込められているという点だ。
私たちの相談者のうち、虐待を受けている子どもの多くが、虐待から逃れようと苦しむあまり、自らを責めたりして、結果として強い自殺念慮を抱いている場合も多い。そのため、仮にAさんが強い自殺念慮を抱いていた場合に信頼関係が構築されていない状態で、取り調べのように虐待の詳細、住所や連絡先などの個人情報を聞くことは極めて危険だったのだ。
Aさんが児童相談所への通報を嫌がった理由
私たちは「今日は相談してくれてありがとうございます。虐待について悩んでおられるのですね、おつらい状況だと思います。私たちがAさんと一緒にできることを最大限考えていきますからね」という、相談してくれたことへの感謝と主訴の確認をした。するとAさんは、
「児相や警察には絶対に通報しないでください」
と訴えてきた。話を聴き進めていくと、Aさん自身に過去、児童相談所からの相談支援経験があったものの、「何も助けてくれなかった」のだという。虐待を受けている子どもからの相談に児童相談所への通告を伝えると「絶対にやめてください」という場合も多い。もちろん事態の深刻度によっては、本人が児童相談所への通告を拒否したとしても、通告を行うことはある。
ただ、今回の場合は、Aさんとの信頼関係を築くことを優先する必要があった。