仕事は見返りのない苦しみ?「働くのやめた」若者が世界で増加中のわけ
「いまは企業と労働者の根比べの状況」
2010年代、米国で経済的独立を達成し、早期リタイアを目指すFIREムーブメントが起きた。働かない点は同じでも、FIREが「不労所得者」を指すのに対し、アンチワークに関わる者は巨額な資産保有に否定的だ。
では、仕事をしないでどうやって食べていくのか。運動参加者には自営業を勧める人もいる。また、搾取的でない働き方は否定しないという意見もある。各々に合った働かない生き方を模索しているようだ。かつてゴールドマン・サックスでヘッジファンドマネージャーを務めたアミン・アズムデ氏は、働かない人の増加がアメリカ経済に及ぼす影響に懸念を示す。
「株式などリスク資産が増加した影響もあり、アメリカ人の仕事と賃金に対するマインドの革命的な変化が起きた。劣悪な条件では働かない人が増えた結果、30年ぶりの賃金上昇がインフレを招き、不安定要素になっています。米企業は好調だが、労働者の要求を呑みすぎれば生産性は下がる。いまは企業と労働者の根比べの状況です」
企業側が大幅に譲歩すれば、仕事復帰も増える。働かない生き方はどこまで広がりを見せるのか。
仕事は対価のない労苦。逃げ出すのは自然な動き
現代の労働のあり方を鋭く批判した文化人類学者デヴィッド・グレーバーの『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(岩波書店)は、2020年夏に日本でも発売され話題となった。アンチワーク運動でも参照される重要なテキストだ。
同書の翻訳を手がけた大阪府立大学の酒井隆史氏が、寝そべり族やアンチワーク運動に共感を示す人々の増加を読み解く。
「この30年、世界で労働条件がどんどん悪化していき、かつ見返りも期待できなくなった。もはや仕事は対価のない労苦でしかない。そんな実感が強まっていたために、コロナ禍で一度仕事を離れたら、マラソンで一回歩くともう走れないといったような心境に陥ったのではないか」
そんな状況に追い打ちをかけるように、多くの仕事がAIに置き換えられることが予想され、労働者の不安を増大させている。
「AI化によって仕事がなくなることは、本当に困ったことなのか。約90年前、経済学者のケインズは100年後の人類は科学と技術発明によって労働から解放され、初めて自分の人生を生き始めることができると書いた。ところがAIによってそれが実現しそうになったいま、我々は『仕事が無くなる。地獄だぞ』と思わされているわけです」