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僕らは「大坂なおみ時代」を生きている。彼女が日本社会に気づかせてくれたもの

ビジネス

大坂なおみは歴史の転換に寄与している

 それに対して国際社会の考え方は逆です。消費者はこういった行動を支援するだろうと企業は読んでいる。

 日本のみをマーケットとしている企業が、もしスポンサーをしていた場合は「困る」「そういったことはやらないでください」という要求を契約しているアスリートにしている可能性がありますよね。これは結構、決定的な話です。つまり日本社会では「アスリートはスポーツだけやってろ」と言っている人が消費者の大多数を占めているという判断を企業がした場合、当然、社会的な発言をしないアスリートを応援することになっていく。

 そういった意味では地続きの話なんですよね。これが、今の日本の資本主義社会の構造だったりする。

 僕が、大坂選手が歴史の転換点に寄与していると思う理由は、社会的なメッセージに関するグローバルスタンダードをアップデートしている功績があるから

 今回彼女が発信した判断は、消費者や株主がそれまでは気づかなかったかもしれないことです。アスリートが試合後の記者会見でメンタルにダメージを受けているという観点は、少なくとも僕は言われて初めて気づいた点ではあるんです。

記者会見、敗者インタビューのエンタメ性

マイクを向ける

※イメージです

 まったく逆の体験として、僕はヒップホップの中でMCバトルに関わっていた時期がありました。2000年代の途中からMCバトルのトーナメントの中で敗者インタビューというものが発明されて、それを僕が担当していた時期があります。これは今、いろんな大会でも継承されています。

 スポーツの敗者インタビューのイメージをMCバトルにも持ち込んで、特に負けた直後の選手にインタビューすると。そこでの苦悶の表情だったり、やりきれなかった気持ちだったり、そういった表情を引き出す。そういう構造を持ったコンテンツです。僕はそれをレポーターとして担当していました。

 負けた直後の選手にそういった質問をぶつけて、何が良くなかったのかなど、そういった発言を引き出したり、感情的になる場面をカメラを通して伝えるということに僕は関わっていました。なので、僕は記者会見が持つ敗者インタビューのエンタメ性がよくわかります。

 敗者インタビューというコンテンツは、ある種のリアルさを伝えて、試合直後はこんな気持ちなんだなということを知ることができます。これは当然、インタビューを受けるMC自身の気持ちに寄り添った行動ではないことは確かです。

 なんだったら、敗者インタビューを取り入れた最初の大会では「本当にインタビューなんか答えたくない、ふざけんな!」という反応もありました。周りの仲間たちも「気持ちを考えてやれ、何で今そんなことを聞くんだ」と。当時、僕は「まあ、そりゃそうだよな」と思いつつ、プロデューサーから依頼された仕事として大会や作品を完成させるために役割を演じていたわけです。

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