不祥事が止まらない東芝。名門を転落させた3つの“事件”を解説
再起を図った原子力発電の巨額買収
粉飾決算から9年遡った2006年1月に、東芝はイギリスの核燃料会社であるBNFLから原子炉装置を開発するアメリカのウェスティングハウス・エレクトリック社を、54億ドル(約6210億円、115円/ドル換算)で買収しました。半導体や医療機器、家電などを扱っていた東芝が原子力発電事業に進出するのは、不思議に感じるかもしれません。
しかし、買収には一定の合理性があります。東芝が扱う製品は市場の変化するスピードが速く、投資サイクルを短くして新たな技術を生み出さなければなりません。巨大組織の東芝がそれについていくのは大変であるため、腰を据えて取り組める事業が必要でした。
また、1997年に京都議定書が採択され、温室効果ガスの削減が叫ばれるようになっていました。環境負荷が低い原子力は、次世代の発電として大いに期待が高まっていたのです。
ウェスティングハウスは、2005年に18億ドル相当で売りに出す方針を立て、アメリカやイギリス、日本政府に打診したと言います。当時、ウェスティングハウスと良好な関係を築いていた三菱重工が、20億ドルで買収すると見られていました。その予想額を2倍以上上回る額で東芝が応札したのです。それだけ原子力発電に将来性を見出していたということなのでしょう。
このとき東芝は、巨額ののれんを計上することになります。のれんとは「買収した会社の純資産と買収額の差」のこと。これが後に債務超過に転落する主要因となります。
福島原発の事故によって建設計画が白紙に
買収からわずか5年後に思いもよらない出来事に見舞われます。福島第一原子力発電所の事故です。発電所の事故で周辺の住民が住処を失うほどの威力を前に、各国は原子力発電所の建設や稼働を見送りました。
中国やアメリカで原子力発電所の建設計画を進めていましたが、軒並みストップしてしまったのです。ウェスティングハウスは、収益源を失って連邦倒産法11章に基づく再生手続きを申請。つまり倒産したのです。
東芝は会社の買収によって生じたのれん6253億円と、原子力関連のその他ののれん872億円の合計7125億円の減損損失を計上しました。2017年3月期には9657億円もの赤字を出します。そして、この赤字額よりも深刻だったのが、2757億円の債務超過に陥ったことです。バランスシートが激しく毀損し、自己資本に厚みをつけるための資金調達が急務となりました。
東芝は2017年12月に6000億円の第三者増資を実施します。第三者割当増資とは、新たに株式を発行して任意の団体や個人に引き受けてもらうことです。東芝は一連の出来事によって信用と企業価値が下がっており、株価は安くなります。普通であれば、上場廃止一歩手前の会社に資金を投じる人はいません。
しかし、東芝は経団連とも深いつながりがあり、防衛相向けの軍事機器も開発・販売するほどの名門企業です。そう簡単に上場廃止や倒産になるわけではありません。そこに目をつけたのが、「アクティビストファンド」です。