累計1730万部、敏腕ジャンプ編集者が明かす『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』ヒットの裏側
「面白い」は探せるがヒットは計算できない
そんな林氏、実は子供の頃は「サンデーっ子」だったと言う。『うしおととら』『ARMS』『今日から俺は!!』『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』『ゴーストスイーパー美神』……。
しかし、中高時代に同級生で持ち寄った漫画を手当たり次第読むようになり、雑食化。2006年に唯一エントリーした出版社である集英社に入社し、初年度から漫画編集の道を歩むことになる。
「漫画家さんとのやり取りで最も重視しているのは、“面白い”の価値観を共有することですね。『作品がヒットするかどうか?』を基準に置くと、“面白い”がブレてしまいますが、自分の中の“面白い”と、作家の中の“面白い”が重なる部分は探せるような気がするんです。
でも、それがヒットするものかどうかはまったくわかりません。アメーバみたいに変化し続ける世の中に対して刺さるかどうかなので、運も必要だし、計算できるものではないと思うんです。
僕ら編集者ができることは、漫画家さんと何度もやり取りして作品としての精度を上げたうえで、デザインや宣伝回りなどでできることを全部やって、商品としての付加価値を高める。それで世に出してみてダメなら、しょうがないです。
その瞬間にベストを尽くしていたら、『いつか時代が評価してくれるかもしれないから次の作品へ行きましょう!』と、漫画家さんにも言えますよね。ヒットしたなら、描き切りたいところまでその作品を描ける権利がもらえた、ぐらいの感覚です。それ以外は特に変わらないですよ」
コロナ禍で世間の漫画への向き合い方が変化?
2020年のコミック市場の販売金額は6126億円となり、25年ぶりに最高額を更新した。コロナ禍において世間の漫画というコンテンツへの向き合い方に、どんな変化があったのだろうか。
「皆さん、コロナ禍になるまで忙しすぎたんじゃないでしょうか。リモートで移動時間が減り、飲み会もなくなって、何しようかとなった時に、映画は2時間だけど漫画だったら20~30分で一冊読めることが多いですし、何より安い。漫画というメディアの手軽さが、空いた時間にうまくスポッと入ったんだと思うんです」
漫画の魅力が再評価されている今こそ、漫画家の力はもちろん、漫画編集者の力がこれまで以上に重要となる。
「特に新人漫画家とのやり取りでは、目の前の作品をどうするかだけではダメで、未来も見据えてその人の感性を成長させなければいけない。何かしらの刺激を与えるためには、僕自身が漫画だけではなく、映画もドラマもアニメも小説も、世の中にあるいろいろな“面白い”に触れておくことが大事だと思うんです。
まあ、仕事だからと触れているつもりは一切ないんですけどね。漫画家さんと一緒に作る作品も含めて、ただただ僕自身が“面白い”ものに触れたくてたまらないんですよ」