米大統領選の陰謀論、ハマる理由は「優越感」。ダースレイダーが解説
SNSでも頻繁に目にする“陰謀論”。最近の陰謀論の特性や、なぜハマる人が多いのか。東京大学中退、明晰な頭脳を生かし、マルチに活躍するラッパー・ダースレイダー(43)の連載「時事問題に吠える!」では現代日本で起きている政治や社会の問題に斬り込む。
今回は陰謀論、陰謀論者について、ダースレイダーが2回にわたり解説する。まずは、その前編をお届けする。
ネタから始まった「Qアノン」
いま、「陰謀論」という言葉がかなり聞かれるようになっています。わかりやすい例で言えば、アメリカ大統領選選挙をめぐる報道に伴うネット上での言説、動画記事などで飛び交っているさまざまな話の中に、陰謀論と言えるものが混じっているというものです。
特にアメリカでは、“Qアノン”という「すべては仕組まれているんだ」「すべては陰謀なんだ」という前提にたった言説がかなり信じられている。そもそもQアノンの発端をたどっていくと、日本でいう5チャンネルのような匿名掲示板である「4chan」「8chan」で、「Xアノン」というさまざまな作り話に「〜アノン」と名付けるようなネタとして始まった遊びでした。アノンはAnonymous(匿名)の略で、Qはアルファベットで17番目の文字です。
そうやってネタとして始まったものに、あとから合流した人がそれを見て「そうだったのか!」「こんなことがあったのか!」「これが本当だったのか!」というふうに信じてしまい、ネタがベタに(手段として利用していたものが目的に)変わっていく。Qアノンの言説はそういった経路をたどり、信じ込まれて拡散され、いつのまにか確固たる“何か”に変貌していきました。ネット上のミーム的な展開のひとつの症例だと思いますが、そういった陰謀論がいま、世界中でかなり広がっています。
陰謀論は、すべての出来事に正解を与える考え方
「陰謀論」はわかりやすく言うと、世の中で起きているすべての出来事の対しての正解、答えを与えてくれる考え方といえます。
何かが起こったときに「実はこれはこうだったんだ」「この人とこの人がこういうことを企んでいたんだ」「この出来事の裏にはこういうことがあったんだ」とか、世の中で起こるさまざまな出来事に必ず答えが用意されてる。これによって違和感が解消され、その答えに到達した人、答えを知り得た人が、それを真実だと思い込む。この場合、みんなが知らないこと、みんなが違うと思っていることに対して「本当はこうだったんだ!」ということに気づいた、このカタルシス、気持ちよさが必ずセットになっています。
これは陰謀論を信じる人が悪い人ということではなくて、人間は誰しもがそういった考え方をするものです。誰も知らないことを自分が知ってしまったときに起こる感情が、自分が見つけた情報の真実らしさ、もっともらしさというものを高めていく。それは自分だけが知っている優越感だったりもするし、危機感だったりもすると思います。さらに言うと、自分たちだけが知っているという仲間意識というものが、さらにその考え方を補強していく、というものに繋がっていくと思っています。
例えば社会学者の宮台真司氏は「国民国家という定住社会の中に閉ざされている人々から見たユダヤ系、中華系のネットワーク社会での生き方に抱く違和感が動機にある」と説明しています。