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元サッカー日本代表・巻誠一郎、引退後は実業家に。今も心に残る「オシム氏の言葉」

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ドイツW杯で「世界の壁」を感じた

 そして、次の試合に先発に起用された巻さんは、見事ゴールを決め、チームの勝利にも貢献。選手のモチベーションに寄り添い、結果を出す。オシム氏の人柄が感じられるエピソードだ。

 オシム監督の薫陶を受けた巻さんは、プロ入り3年目からチームのレギュラーに定着すると、翌2006年に行われたドイツW杯を戦うジーコジャパンにも選出された。

 だが、世間の高い期待値とは対照的に、日本代表は1分2敗で予選敗退。巻さんも、第3戦目のブラジル戦に先発で出場したが、勝利に貢献することはできなかった。

「FWはゴールを決めるとヒーローになれますが、決められないと容赦無くバッシングを受ける。日本中が注目している試合に出るプレッシャーや、恐怖感はありましたね。ベンチにいる時は、自ずと『試合に出たい想い』が募りますが、レベルの高い相手選手のプレーを見てしまうと、『やっぱり出たくないかも?』とも思ってしまったり……」

苦い経験ではあったが、得られたものも

巻誠一郎

「さまざまな想いが交錯するなかで、もし試合に出た時は1つひとつのプレーに集中し、責任を持つ必要がある。僕も含めてですが、責任を持ってプレーできたかというと、疑問が残る部分もあります。日本人は、責任を持つことにあまり慣れていない。

 当時、監督をされていたジーコさんは、本当に自由にプレーさせる方でした。改めて振り返ると、ある程度の指標、具体的な戦術など、『何かの決まり事』を求めてしまう傾向がある日本人にとって、ある意味でハードルが高い部分もあったように思いますね

 当時も高い能力の選手はたくさん揃っていましたけども、『自分で考えて判断する』という文化が今よりは根付いていなかった。現在は、さまざまな日本人選手が海を渡り、トップクラブの一員として試合に出場するのが当たり前になりつつあります。

 日本のサッカー界はこの経験を生かし、着実に成長してきたんじゃないかと感じますね。僕自身もワールドカップでの苦い経験があったからこそ、その後のサッカー人生で、世界の高い水準をイメージしながらプレーすることができました。ワールドカップで得られたものは大きかったかなと思います」

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