元楽天・一場靖弘が語る、ドラフト裏金事件を経て歩む「第三の人生」
弱目にたたり目のような出来事が
野球しかやってこなかったが、先の人生はまだ長い。一度野球から離れるために一般企業に就職することを決めた。高校の同級生が勤務する看板デザイン会社、楽天の先輩・紀藤真琴さんが役員を務める通信機器販売会社を経て、外資系保険会社に入社。’14年には再婚し、生涯の伴侶にも恵まれた。
「保険会社では販売成績も好調でしたし、着実にステップアップできていると感じていました。すでにプロアマ資格(学生野球資格回復認定)も取得していましたし、次第に肩も良くなってきたので、休みの日に知り合いの子供に野球を教えたりもしていました」
順調に見えたセカンドキャリアだったが、落とし穴があった。楽天時代にローンで購入した仙台のマンションが東日本大震災で半壊し、資産価値が激減。しかも、ローンを組んでいたのは、のちに不祥事や融資を巡るトラブルが社会問題となったスルガ銀行だった。売却したものの高金利の借金だけが残っていた。
「しょうがなかったとは思っていません。震災が影響したとはいえ、僕が無知過ぎたんです。住居として購入しましたが、あとあと投資に繋がればいいなと甘い考えだったのが原因です。入団時のことがあったので、お金のことは人一倍気を付けていたつもりだったのですが……」
運が悪いようで、運が良い
昨年8月に自己破産し、裸一貫で再出発するつもりだったが、「野球アカデミーをやってみないか」と手を差し伸べてくれる人が現れた。妻にも「野球を教えている時のほうが、いきいきしていたよ。せっかく資格も持っているのに」と背中を押され、野球指導者として生きていくことを決意した。
しかし、第三の人生を歩み出した矢先に、新型コロナウイルスが大流行。今までのようにレッスンするのは難しい世の中になってしまった。
傍から見れば不運続きに見えるが、意外にも本人は「周囲には運が悪いようで、運が良いねってよく言われるんですよ」と明るく晴れやかだ。
「プロ入りがダメになりかけた時は、楽天ができて拾ってくれた。自己破産して再びどん底に落ちた時には、アカデミーの話をいただけた。僕自身は運がいいとは思っていなかったのですが、言われてみれば確かにそう。落ちるところまで落ちたら、あとは上がるだけですしね」