新幹線殺傷事件「不適切表現」報道、なぜ炎上したか?
東海道新幹線「のぞみ」内で、女性を切りつけた犯人を止めにかかった勇敢な男性が殺害されました。
「前向きで、他人のために何とかしたい、と考える人だった」と会社の上司が話しています。被害者は東大卒で人当たりも良く、優秀で世界にも出ていけるような人材でした。本当に無念だろうし、また理不尽な事件が起こったことで、日本中が怒りと不安を感じています。
「容疑者は自閉症」掲載した新聞社が炎上
そんななか、小島一朗容疑者(22)の母親が11日、謝罪のコメントを発表しました。「一朗は小さい頃から発達障害があり大変育てにくい子でしたが、私なりに愛情をかけて育ててきました」というものです。
同時に、犯人が「発達障害」の中の「自閉症」だったということで、新聞社の報道がこの事実を掲載したことに対して配慮を求める声や批判が上がり、SNSが炎上して、謝罪文まで出るという騒ぎになりました。
実は、これまで私が取材してきた特殊な青少年の事件では、加害者たちがいずれも「自閉症スペクトラム障害」というハンディキャップをもっていました。
発達障害は脳機能の障害で、親の育て方やしつけが原因ではなく、精神疾患でもありません。その中のひとつの「自閉症スペクトラム障害」は「社会的コミュケーションの障害」「限定された興味を持つ」というのが特徴です。
高い知能を持ちながらも社会に適応できない人も多く、衝動的で時には暴力的になったりするケースもあります。
「非常にまじめで優秀な子」という印象
小島容疑者は愛知県一宮市の実家で家族と中学2年生の冬ごろまで暮らしていました。しかし、中学校でのいじめや、両親との不仲が原因で不登校になってからは実家を出て、一宮市内にある居場所のない人たち向けの自立支援施設に14~19歳で入所します。
勉強会やボランティア活動に取り組みながら、一宮市内の定時制高校を3年間で卒業しました。施設の代表は「非常にまじめで優秀な子。人を傷つけることはなかった」と話しています。
卒業後は名古屋市内の職業訓練校に通い、一度は埼玉県の機械修理会社に就職したのですが、会社での人間関係に不満を持ちすぐに退職。そして、一昨年の10月から岡崎市にある母方の叔父や祖母が暮らす家で生活するようになります。
拙書『となりの少年少女A』(河出書房新社)の中でも書いたのですが、家族が自分の子どもが発する危険シグナルに気づき、行政や医療機関などで必要な支援を受けさせていたら、大事件にはならなかったケースが多いように思います。取材を通して気づいたことは、本人も周りも「発達障害」を正しく認知し、理解することが必要だということです。
この容疑者は自閉症と診断されていました。自殺願望を訴えたり、深夜にドアを蹴り飛ばし、包丁と金づちを投げられたこともあったと父親がインタビューで答えています。不適応を知ったとき、家族や周りはどのような支援をしていたのでしょうか。